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2016年12月12日
法改正で見直される仕事育児の両立支援
以前のお役立ち情報(人事労務)では、今回の育児介護休業法の改正に伴う、「介護離職」を抑え、働きながら介護に専念できるようにするための制度の見直しについて、お伝えいたしました。
今回は仕事と育児の両立支援の見直しについてお伝えいたします。
1.有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和
従来は、有期契約労働者が育児休業を取得するには、次の3つの要件に該当する必要がありました。
(1)申出時点で過去1年以上継続雇用されている者
(2)子が1歳になった後も雇用継続の見込みがある者
(3)子が2歳になるまでの間に雇用契約が更新されないことが明らかな者今回の改正で取得要件が緩和され、次の要件に該当する有期契約労働者は育児休業が取得できるようになり、より取得しやすい制度となります。
(4)申出時点で過去1年以上継続雇用されている者
(5)子が1歳6ヶ月になるまでの間に雇用契約がなくなることが明らかでない者2.子の看護休暇の取得単位の柔軟化
従来は1日単位の取得でしたが、今回の改正により半日単位で取得できるようになります。半日の単位は「所定労働時間の2分の1」が基本ですが、従業員との間で労使協定を締結することで、半日の単位を「午前3時間、午後5時間」のように、会社が希望する時間帯とすることも可能です。この取り扱いは、以前ご紹介した「介護休暇」も同様となります。
3.育児休業等の対象となる子の範囲拡大
育児休業等が取得できる対象は、法律上の親子関係がある実子または養子とされていましたが、改正により特別養子縁組の監護期間中の子、養子縁組里親に委託されている子も新たに対象となりました。なお、ここでいう育児休業等とは、育児休業の他に、子の看護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置も含まれます。
今回の改正により規程の改訂が必要となります。改訂した規程は従業員へ周知し、自社に安心して育児や介護に取り組める環境が整っていることを案内しましょう。
【厚生労働省】育児・介護休業法について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html -
2016年11月9日
業務改善助成金について
2016(平成28)年10月1日より地域別の最低賃金額が引上げられました。 全国平均で引上げ額が24円、時給は823円となり、最低賃金額が全国で最も高い東京都では932円となりました。これは、最低賃金が時給で決まるようになった2002(平成14)年度以降最大の引上げ額となります。 最低賃金の引上げは労働者の待遇を改善する効果がある反面、企業側、特に中小企業にとっては人件費の負担が大きくなります。負担増となる中小企業のために、政府は助成金の形で支援策を用意しています。
今回は、支給要件が拡充された業務改善助成金についてご紹介します。
- 業務改善助成金とは
最低賃金額の引上げにより影響を受ける中小企業・小規模事業主を支援することを目的に設けられた制度です。 - 制度概要
生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部が助成されます。- POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
- リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
- インターネット受発注機能があるホームページの作成による業務の効率化
- 顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化
- 専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上
- 支給要件
事業場内の最低賃金額が時給1,000円未満の労働者を使用する事業主が最低賃金を一定金額まで引き上げることで支給が受けられます。拡充前は時給800円未満の事業主が対象でしたが、拡充により利用できる事業主の幅が拡大しました。 また、拡充前は引き上げ額が60円以上の1コースだけでしたが、拡充後は30円、40円、90円、120円以上と複数のコースから引き上げ額を選択できるようになりました。なお、事業場内の最低賃金額により選択できるコースは異なります。
ただし、最低賃金を引き上げて支給要件に該当する事業主であっても、直近2年間で労働保険料の未納がある場合や申請日の3ヶ月前から申請日が属する年度の末日までに解雇等の事業主都合の退職がある場合は助成金の支給が受けられませんので注意が必要です。
今回の改正の内容については厚生労働省のリーフレットもご参照ください。
http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160901005/20160901005-1.pdf - 業務改善助成金とは
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2016年10月12日
過重労働撲滅特別対策班について
2016(平成28)年4月1日に厚生労働省から長時間労働への対策が発表されました。 発表された対策のうち特に大きな影響が予想されるのは以下の2点です。
- 月残業100時間超から80時間超へ重点監督対象を拡大
これまでは1ヵ月の残業時間が100時間を超えていると疑われる場合に立ち入り調査の対象とされていましたが、今後は調査対象が月の残業時間が80時間を超えていると疑われる事業者に拡大されました。行政の試算では、拡大により年間の調査対象企業が従来に比べ倍増するとされており、その方針として主に過労死認定基準を超えるような残業が行われている事業場へ重点的に対応していくとされています。 - 監督指導・捜査体制の強化・全国展開
2015年(平成27)年に全数監督の総括、夜間臨検の実施・調整などを職責とする過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)が東京労働局と大阪労働局の2ヵ所に設置されました。今後はその機能を全都道府県へ拡大させ、全労働局に長時間労働に関する監督指導等を専門に担当する「過重労働特別監督管理官(仮称)」を各1名ずつ配置し、監督指導、捜査態勢を強化する方針が示されています。
その他にも、長時間労働の原因とされる業界特有の環境や条件の改善に向け、国土交通省や中小企業庁・公正取引委員会などの関係省庁と連携した取り組みを進めることも併せて発表されました。長時間労働の常態化が及ぼす影響は労働者の健康問題はもちろん、割増賃金の増加による会社のコストインパクトも免れません。今回の行政方針を受け、残業事前承認制の導入、フレックスタイム制適用、 ノー残業デーの活用など、自社の勤怠管理方法が長時間労働の抑制につながっているかを一度確認してみてはいかがでしょうか。
今回の改正の内容については厚生労働省のリーフレットもご参照ください。
厚生労働省「法規制の施行強化」
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/01_1.pdf - 月残業100時間超から80時間超へ重点監督対象を拡大
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2016年9月6日
平成29年より施行される仕事と介護の両立支援の形
2017(平成29)年1月1日より改正育児・介護休業法が施行されます。今回の改正では、より仕事と育児・介護の両立ができるように、両立支援の形が見直しされています。今回は、そのうち介護の両立支援に焦点を当てて解説をしていきます。
今回の改正では、最近問題となっている介護離職を回避するために、次のような両立支援施策の見直しが行われました。
- 介護休業の3回までの分割取得ができる
- 介護休暇が半日単位で取得できる
- 「介護のための所定労働時間の短縮措置等」が介護休業とは別に利用できる
- 介護のための所定外労働の制限制度が新設される
それぞれについて詳しく内容を見ていきましょう。
- 介護休業の3回までの分割取得ができる。
現行の介護休業は、対象家族1人につき、原則1回に限り、93日まで取得ができますが、改正により、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割で取得できるようになります。 これにより介護の状況に応じた、より柔軟な取得が可能となります。 - 介護休暇が半日単位で取得できる
現行の介護休暇は1日単位での取得となりますが、改正により、半日(所定労働時間の2分の1)単位の取得が可能となります。なお、この変更は子の看護休暇も同じく適用とされます。 - 「介護のための所定労働時間の短縮措置等」が介護休業とは別に利用できる
現行制度では介護のために時短勤務を取得する場合は、介護休業と通算して93日までの取得とされていました。改正により、介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上の利用が可能となります。 - 介護のための所定外労働の制限制度が新設される
現行制度では義務化されていない、介護のための所定外労働の制限が制度として新設されました。これにより介護で残業が難しい労働者は、申請することで残業の免除を受けることが可能となります。各制度の詳細については、今後通達等で公表される予定です。
また、今回の改正では、就業規則等の改訂も必要となるため、施行に向けて、先ずは改正内容の全体像を理解するようにしましょう。
今回の改正の内容については厚生労働省のリーフレットもご参照ください。
【厚生労働省】育児・介護休業法が改正されます!
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h28_06.pdf -
2016年8月10日
介護休業給付金の給付率変更について
2016(平成28)年3月29日に成立した改正雇用保険法にて、この8月1日から介護休業給付金の給付率の変更が決定されました。従来は休業1日につき休業開始時賃金の40%の支給でしたが、8月1日以降に介護休業を開始した被保険者に対しては、賃金の67%の給付金が支給されることになりました。
支給の要件には変更はなく、次の2つの要件を満たした被保険者に対し支給されます。
- 2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態にある家族(次のいずれかに限る)を介護すること
- 配偶者、父母、子、配偶者の父母
- 同居している祖父母、同居している兄弟姉妹、同居している孫
- 介護のために休む期間の初日及び末日を明らかにして会社に申し出をし、
実際に取得した休業であること
給付金の支給期間は、最長3か月間(93日間)です。今回の給付率引き上げは、将来懸念される介護により離職せざるを得ない「介護離職」を抑える為に実施された背景もあります。制度内容をしっかり理解し、従業員へ周知していきましょう。
改正の詳細については、厚生労働省のリーフレットもご参照ください。
【厚生労働省】介護休業給付改正リーフレット
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000127886.pdf - 2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態にある家族(次のいずれかに限る)を介護すること
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2016年7月12日
扶養控除等申告書とマイナンバー
2016(平成28)年度の税制改正の中で、扶養控除等申告書のマイナンバー取扱いについて新しいルールが公表されました。
その内容は次のとおりです。「給与支払者が扶養控除等申告書に記載されるべき従業員本人、控除対象配偶者又は控除対象扶養親族等の氏名及びマイナンバー等を記載した帳簿を備えている場合には、その従業員が提出する扶養控除等申告書にはその帳簿に記載されている方のマイナンバーの記載を要しない」
会社が定められた情報を網羅している帳簿を作成、保管することで、扶養控除等申告書へのマイナンバー記載を不要とする運用ができるようになりました。次に、帳簿に記載が必要となる情報についてみていきましょう。帳簿には次の情報が記載されている必要があります。情報が網羅されていれば電磁的記録で備えることも認められています。- 扶養控除等申告書に記載されるべき提出者本人、控除対象配偶者、控除対象扶養親族等の氏名、住所及びマイナンバー
- 帳簿の作成に当たり提出を受けた申告書の名称
- 2. の申告書の提出年月日
1.の情報は変更があった場合はその都度訂正をしなくてはいけません。国税庁のQ&Aでは異動前の情報記載は求められていませんので、帳簿は常に最新の情報を備えておけば履歴の管理までは不要と考えられます。
2.は、マイナンバーが記載された扶養控除等申告書だけではなく、「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨を記載して提出した扶養控除等申告書に基づき作成することも可能です*。そのため、既にこの方法で扶養控除等申告書の提出を受けている場合も、新しくマイナンバーを記載した申告書の提出を受けることなく帳簿を作成することも可能です。
*個人番号記載の省略方法については、アクタスが発行する『法報タイムズ』の504号で紹介しています。
法報タイムズ504号 平成28年以降に提出される扶養控除等申告書への個人番号記載の省略方法
http://www.romu.jp/cms_magazine/2015/12/504.html今回の新しいルールの詳細は国税庁のFAQでも確認できますのでそちらもご参照ください。
【国税庁】<マイナンバー>FAQ源泉所得税関係に関するFAQ
http://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/gensen_qa.htm#a13-2 -
2016年6月13日
通勤手当の非課税限度額の引き上げについて
平成28年度の税制改正による通勤手当の非課税限度額の引き上げについて国税庁より案内が公開されました。
従来、通勤手当の非課税限度額は1ヵ月あたり10万円とされていましたが、平成28年1月1日以降に支払われるべき通勤手当については、その限度額が15万円へと引き上げられることが決定いたしました。大きなポイントは、案内が公開された4月時点で既に支給済みの通勤手当についても遡及して適用される点です。既に課税済みの通勤手当への遡及適用の具体的な取り扱いについては、案内のリーフレットに以下のように記されています。
「既に支払われた通勤手当については、改定前の非課税規定を適用し10万円を超えた部分について源泉徴収が行われているが、改定後の非課税規定を適用した場合に過納となる税額は、本年の年末調整の際に精算する」
今回の非課税限度額の引き上げにより過納となってしまった税額は、今の時点で精算する必要はなく、今年の12月に実施する年末調整で精算すれば良いことになります。さらに、年度の途中で退職する社員など年末調整をする機会のない人は確定申告で精算することになります。国税庁からの案内リーフレットには源泉徴収簿及び源泉徴収票の記入方法も記載されておりますので、併せてご確認ください。
【国税庁】通勤手当の非課税限度額の引上げ(リーフレット)
http://www.nta.go.jp/gensen/tsukin/pdf/01.pdf -
2016年5月9日
平成28年4月から改定となった社会保険の現物給与価額について
厚生労働省告示によりこの4月1日から現物給与の価額が改定されました。給与は金銭で支給されるのが一般的ですが、社宅の提供、食事の支給、通勤定期券など金銭以外で支給されることがあります。
これらを現物給与といい、現物給与を支給する場合は、その現物給与を厚生労働大臣が定めた価額を用いて通貨に換算し、金銭で支給する給与と合算して社会保険の標準報酬月額を決定する必要があります。 以下に代表的な現物給与の社会保険上の取扱いについてご紹介します。現物給与を導入する際には、算入漏れの無い様お気をつけください。
- 食事を支給する場合
会社が社員に食事を支給する場合、『都道府県ごとに定められた価額』で通貨に換算して給与に算入します。この価額は1ヵ月や1日あたりの金額だけでなく1日あたりの朝食、昼食、夕食のみの金額も都道府県ごとに定められています。今年は東京都、京都府を除く都道府県で価額が変更になっています。 - 住宅を提供している場合
会社が社員に社宅や寮を提供する場合も『都道府県ごとに定められた価額』で通貨に換算して給与に算入する必要があります。算出対象は居住用の室となり、玄関、台所、トイレ、浴室など居住用以外の室は含まれません。また、価額は畳1畳あたりの金額となっていますので、洋間など畳を敷いていない室の場合は1.65平方メートルを1畳に換算して算出します。今年はすべての都道府県で価額が変更になっています。 - 通勤定期券
通勤費を定期券や回数券で支給した場合も現物給与として取り扱われます。3ヵ月または6ヵ月単位でまとめて支給する通勤定期券は、1ヵ月あたりの額を算出して給与とします。各都道府県の価額は日本年金機構のリーフレットをご確認ください。
また、当リーフレットには現物給与に関する実務上の注意点がQ&A形式で掲載されておりますので、こちらも併せてご確認ください。 https://www.nenkin.go.jp/yougo/kagyo/genbutsukyuyo.files/20160401.pdf
税務上の取り扱いについては、国税庁のホームページをご確認ください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/gensen32.htm - 食事を支給する場合
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2016年4月6日
税の扶養親族と健康保険の扶養家族の取扱い変更
2016(平成28)年の法改正により、税と社会保険の両分野で扶養する家族の事務取扱いが一部変更されます。今回は扶養する家族の実務変更をテーマに解説をしていきます。
1. 国外居住親族の扶養控除について
2016(平成28)年より社員が海外に住む親族について扶養控除の適用を受ける場合、扶養控除等申告書の他にその親族に係る「親族関係書類」と「送金関係書類」を会社に提出し、会社はその扶養状況を確認する必要があります。
それらの書類が外国語の場合には、日本語訳も必要となります。さらに「送金関係書類」は申請する扶養親族それぞれに提出が必要となり、一人の代表者に対してまとめて送金している「送金関係書類」は、その代表者のみ有効な書類となります。また、親族に現金を直接手渡ししている場合は、扶養親族と認められず、扶養控除の適用を受けることができませんので注意しましょう。
自社に対象となる社員がいる場合、過去に扶養控除を適用している場合も、改めて扶養状況について確認を取るようにしましょう。
国外居住親族の取扱いに関する詳細なQ&Aが国税庁から出ていますので、併せて確認をしておきましょう。
・国税庁ホームページ:国外居住親族に係る扶養控除等の適用について
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/kokugai/index.htm2. 健康保険の扶養家族の要件について
これまでは兄姉を扶養家族として健康保険の被扶養者に追加するためには同居していることが必要とされていましたが、2016(平成28)年10月以降は同居要件が撤廃されることになりました。これにより別居をしている兄姉も年収130万円未満であり生計維持関係が認められれば被扶養者への追加が可能になります。
別居を理由に兄姉が国民健康保険に加入しているケースが考えられますので、該当すると思われる社員には周知をしておくようにしましょう。
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2016年3月8日
本年4月から傷病手当金、出産手当金の計算方法が変更
2015(平成27)年の健康保険法改正により、2016(平成28)年4月から傷病手当金及び出産手当金の給付金額の計算方法が変わります。 傷病手当金及び出産手当金は、病気や出産で休んだ日に対し、被保険者の「標準報酬日額」の3分の2に相当する給付金が支給されますが、この「標準報酬日額」の算出方法が今回変更されます。
「標準報酬日額」とは、被保険者の保険料決定の基礎となる標準報酬月額の30分の1に相当する額をいいます。これまでの「標準報酬日額」は、給付金の支給日時点の標準報酬月額により算出されていましたが、今年4月からは支給開始日以前1年間の平均額により算出する方法に変わります。例えば、2016(平成28)年4月1日から支給される給付金は、2015(平成27)年5月から2016(平成28)年4月までの標準報酬月額の平均額により金額が算出されます。
今回の変更は2016(平成28)年4月1日以降に新たに給付金の支給が開始される被保険者だけでなく、現在給付金を受給している被保険者も対象となります。現在受給中の被保険者は2016(平成28)年4月1日分から新しい計算方法により給付金が計算されますので、対象者へは事前に説明が必要となります。
また、支給開始時点で入社から1年が経過してないことで、標準報酬月額が12ヵ月に満たない被保険者が手当金を受給する場合にも注意が必要です。
この場合は上記とは別の計算方法が使用されます。まず、被保険者の在籍期間における標準報酬月額の平均額を算出し、この平均額と前年度の9月30日時点の全被保険者の標準報酬月額の平均額(参考:2015(平成27)年度、協会けんぽの場合28万円)とを比較して、いずれか低い方の金額を基礎として支給金額が決定されます。ただし、当該被保険者が前職でも同じ保険者に加入していた場合、前職の退職日と入社日の間が原則1ヵ月以内であれば例外として前職の期間も通算して計算されます。
標準報酬月額の高い被保険者が入社後1年未満で給付金を申請する場合、実際の収入に対して給付金の金額が低くなる可能性があります。そのため、人事担当者は新しい計算方法を理解し、対象となる被保険者に対し丁寧な説明をすることが求められます。
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2016年2月10日
現在審議中の労働基準法改正案の概要について
現在国会で審議されている労働基準法の改正案は以下の通りです。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/189-41.pdf”今回は特に中小企業への影響が大きいと思われる2点について解説をしてまいります。
- 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
労働者が法定労働時間を超えて働いた場合、その時間外労働に対して通常賃金の25%増しによる割増賃金の支給が必要ですが、時間外労働が月60時間を超えた場合には、60時間を超えた部分に対し50%以上の割増賃金を支給することが求められています。(労基法37条)
同制度はこれまで中小企業は免除されていましたが、改正案が可決されると中小企業への免除措置が廃止となります。
改正案の施行時期は平成31年4月とされており、施行まで3年間の猶予がありますが、将来の施行開始を見据えて、社内の残業時間の現状を把握し、業務の平準化や残業の事前申請などのルール化及び徹底など、残業削減の対策を今から進めていくことが求められます。 - 一定日数の年次有給休暇の確実な取得
年次有給休暇が年10日以上付与されている労働者に対しては、年間5日の有給取得を会社に義務付ける制度です。
この改正案は平成28年4月に施行開始が予定されており、実務において注意して頂きたいポイントは次の2つです。- 正社員に限らない
パートやアルバイトであっても、年10日以上有給休暇が付与されていれば取得義務化の対象となります。 - 年間5日を既に取得していれば義務は発生しない
既に労働者全体で取得日数が年間5日を超えている場合は、取得義務は発生しませんが、取得率が低い会社は取得義務への対応が必要となります。
例えば、労働者が自ら2日の有給休暇しか取得していない場合は、年間5日に満たない3日を会社は取得させる義務を負うことになります。
- 正社員に限らない
日本は世界の中でも有給休暇の取得率が低いといわれており、長時間労働による労働者の健康への影響も懸念されています。労働者の心身のリフレッシュに有給休暇の積極的取得は大事なことです。
一方で現場で混乱が生じないよう、未取得者への取得を連続休暇とするか、2ヵ月に1日ずつ指定するか等、どのように有給休暇を取得させるかを練る必要があります。
また、5日以上の確実な取得に向け管理簿等を整える必要もあります。
今回解説をした改正案は、いずれも労使双方に影響が出てまいります。
労働者から質問がある可能性も考えられますので、自社で取り得る方針を検討し、体制、ルール作りを予め進めるようにしましょう。
- 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
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2016年1月8日
本年10月よりパートタイム労働者の社会保険適用が拡大
本年10月よりパートタイム労働者の社会保険適用が拡大されます。今回、新たに社会保険の適用が拡大されるパートタイム労働者は、次の要件に該当する場合となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
- 月額の賃金が8.8万円(年収106万円)以上であること
- 継続して1年以上使用されることが見込まれること
- 学生ではないこと
- 社員数が501人以上の会社であること
現在は労働時間が正社員の4分の3以上のパートタイム労働者が社会保険の適用対象ですが、今後は週の所定労働時間が20時間以上かつ月の賃金額が8.8万円以上のパートタイム労働者にも社会保険が適用となります。ただし、学生についてはこの要件に該当しても社会保険は適用されません。
また、継続して1年以上使用されることが見込まれるとは、期間の定めがない場合や雇用期間が1年以上ある場合はもちろん、雇用期間が1年未満 であっても雇用契約書において契約更新される旨又は更新される場合がある旨明示されている場合も含むとされています。
今回の改正が適用されるのは社員数501人以上の会社に限定されますが、500名以下の会社についても、2019(平成31)年9月30日までに検討が行われ、必要な措置が取られることとされており今後更なる拡大が見込まれます。
社会保険の適用拡大は会社には社会保険料の増加に繋がりますので、増加するコストをどのように吸収するのかを会社は考えていく一方で、今後の社会保険の適用拡大の方向性が不可避の状況の中、今回の法改正をパートタイム労働者の積極的な活用に結び付ける姿勢が求められます。
人事労務