-
2010年7月20日
有期契約社員の退職を拒否できるか
期間の定めのある労働契約(以下、「有期労働契約」)によって雇った社員から、契約期間の途中に退職の申し出があった場合、その社員が退職すると業務が立ち行かなくなる等の理由により退職の申し出を拒否し、契約期間満了まで働かせることはできるのでしょうか。
有期労働契約に関しては、労働契約法により以下のようなルールが定められています。
- 原則として、労使ともに契約期間満了前に契約解除できない。
- 1年を超える有期労働契約では、契約初日から1年を経過すれば労働者はいつでも契約解除の申し出ができる。
- 「やむを得ない事情」があるときに限り、ただちに契約解除できる。
- 解除が一方の過失によって生じたときは、相手方に損害賠償責任を負う。
ここでいう「やむを得ない事情」とは、社会通念上労働契約を続けることができないような場合で、例えば以下のような場合です。
- 会社が採用時に提示した労働条件と実情が異なっていたとき
- 労働者本人のケガや病気、家族の看病などで働けなくなったとき
従って、退職申し出の理由が上記のような理由にあてはまらなければ、会社は退職の申し出を拒否することができます。
また、退職理由が労働者の責任(過失)によって生じた場合や、理由もなく勝手に辞めた場合には、会社は損害賠償請求をすることもできます。
ただし、この損害賠償請求は、有期契約社員の退職が直接の原因となり受注済の仕事を断り違約金を支払った場合など、具体的な損害が生じていなければできません。会社が損害の発生を回避する努力をしたかどうかも問われますので、注意が必要です。
いずれにせよ、有期労働契約を締結する際には、契約途中で安易に退職の申し出がされないよう、雇用時に契約解除のルールを十分に説明しておくことが必要です。また、その説明をしてもなお退職の申し出があった場合、無理な慰留をすると本人の著しいモチベーション低下や周りの社員へ影響を及ぼすことがありますので、慎重に判断することが重要です。
-
2010年5月20日
2010年7月より施行される改正「障害者雇用促進法」
障害者雇用促進法の概要
障害者雇用促進法とは、「障害者が、その能力に適合する職業に就くこと等を通じて、その職業生活において自立することを促進するため(法1条)」、一定規模以上の企業に障害者の雇い入れなどの義務を課している法律です。具体的には、以下の2つの制度がポイントになります。
- 障害者雇用率制度
企業に対し、常用雇用労働者の1.8に相当する障害者を雇用することを義務付けている制度です。常用労働者が56人で障害者雇用義務数が1.008人となり、1人以上の障害者雇用義務が発生します。 - 障害者雇用納付金制度
上記の雇用義務数を達成できない企業から、「障害者雇用納付金」として、不足1人に対し月額5万円を徴収する制度です。
この納付金をもとに、雇用義務数より多く障害者を雇用する企業に対して「障害者雇用調整金」として、超過1人に対し月額2万7千円を給付し、その他、障害者を雇用するために必要な施設設備費などに使われています。
なお、本納付金制度は、現在は「常時300人を超える労働者」を雇用する企業にのみに適用されています。
改正法の内容
- 障害者雇用率制度の改正点
企業が障害者を短時間労働者として受け入れることを促進するため、障害者の雇用数の算定方法が以下の通り変更されます。
<改正前>
週の所定労働時間が30時間以上の労働者を「1人」として算定する
<改正後>
上記に加え、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者を、「0.5人」として算定する。
- 障害者雇用納付金制度の改正点
適用対象となる企業が以下の通り変更されます。
<改正前>
常時300人を超える労働者を雇用する事業者
<改正後>
常時200人を超える労働者を雇用する事業者
なお、2015(平成27)年7月より、常時100人を越える労働者を雇用する事業者が対象となります。
障害者雇用時の注意点
障害者雇用を検討する際は、担当職務の有無、選考方法、雇用形態、勤務時間、インフラ整備、教育研修や労務管理など、様々な事項を考慮し、その是非を判断する必要があります。
「障害者就業・支援センター」などの支援機関や「ハローワークの雇用指導官」が、初めて障害者を雇用しようとする企業に対し、社内に適当な仕事はあるか、安全面の配慮はどうすればよいか等、障害者雇用の企画段階から様々な相談に応じていますので、必要に応じて利用してはいかがでしょうか。 - 障害者雇用率制度
-
2010年4月20日
労働基準監督署の調査について
労働基準法が改正されました。今回の改正は、長時間労働の抑制を目的として行われており、今後、労働基準監督署による法令順守に関する調査、指導が強化されることが予想されます。
なぜなら調査、指導の対象として多いのが1.残業代の未払い、2.過重労働の問題であり、どちらも長時間労働がその主な要因にあるからです。労働基準監督署の権限
労働基準監督署の役割は「事業主に労働諸法令を遵守させる」ことです。その遂行のあたるのが労働基準監督署に在籍する労働基準監督官です。
労働基準監督官は、職務遂行のために立ち入り検査(「臨検」といいます。)、従業員への質問、帳簿等の閲覧、そして労働基準監督署への出頭を命じる権限を有しています。
また、刑事訴訟法に定められている「特別司法警察職員」として、逮捕権限という強い権限を有しています。定期監督と申告監督
労働基準監督署の調査には、大きく2つの種類があります。
- 定期監督 → 労働基準監督署が職権により実施する調査
- 申告監督 → 労働者からの申告により実施する調査
1.の定期監督では基本的に臨検(立ち入り調査)は行われず、労働基準監督署より通知文が調査対象企業に送付されてきます。事業主は、通知書に記載された必要書類を労働基準監督署に持参し、調査を受けます。
2.の申告監督は定期監督よりも厳しい調査です。申告監督が行われる場合、既に法令違反の事実が労働者より労働基準監督署に伝えられており、労働基準監督署は、事前に相当な裏付けを持って調査に入ります。
そのため、申告監督では臨検(立ち入り調査)を行うことが一般的で、申告された法令違反の事実を中心に重点的かつ厳しく調査されます。
近年は、申告監督が増加しており、違反内容が労働時間に関する場合にはパソコンのログイン記録や警備会社に残っている入退室記録までもが調査の対象となる事例もあります。労働基準監督署の調査で「違反事実」が判明した場合
調査の結果、法令違反の事実が判明すると是正指導として「是正勧告書」が交付されます。「是正勧告書」は行政指導とされ、この書式そのものに法的拘束力はありませんが、記載されている内容は、法令違反の事実そのものであり、労働基準監督官には法令違反者に対して逮捕権限を持っていることを忘れてはいけません。
是正勧告に対して非協力・不誠実な対応、無視、虚偽の報告等をすれば、本来の法令違反に基づいて逮捕、送検されますので真摯に対応することが重要です。
なお、「是正勧告書」を交付された事業主は、是正内容の改善について「是正報告書」を労働基準監督署に提出することになります。労働基準監督署の調査に対する対策
労働基準監督署の調査に対する対策は「法令順守の経営」の一言に尽きます。
労働基準法は労働条件の最低基準を定めたものですので、これを下回る労働条件が許されることはありません。中でも以下の項目は、不備が散見される項目ですので、注意が必要です。- 36協定の締結、労働基準監督署への提出の有無
- 割増賃金の算定式
- 時間外手当の「みなし支給」
- 「管理監督者」に該当するかどうかの判断
- 時間管理の適正な実施
- 時間外労働の多い社員の把握と対応
- 健康診断の実施の有無
-
2010年3月1日
育児給付・育児休業に関する法改正
最近話題となっている「子ども手当」ですが、今後、子ども手当のほかにも少子化対策として共働きの時代においても安心して出産・育児ができるような様々な法改正が行われる予定です。
今回は、今年控えている育児に関する法改正のポイントについて解説致します。2010(平成22)年4月1日施行の法改正点
雇用保険より支給される「育児休業給付」が以下のように統合されます。
(現行の育児休業給付)
育児休業基本給付金・・・・・・休業開始時賃金の30%
育児休業職場復帰給付金・・・・休業開始時賃金の20%
(2010(平成22)年4月1日以降の育児休業給付)
育児休業基本給付金・・・・・・休業開始時賃金の50%
育児休業職場復帰給付金・・・・廃止ただし、2010(平成22)年3月31日までに育児休業を開始された方は、現行通り育児休業基本給付金として育児休業中に30%、職場復帰して6ヶ月経過後に育児休業者職場復帰給付金が20%支給されます。
2010(平成22)年6月30日施行の法改正点
育児介護休業法の改正により、「育児休業」など育児に関する取扱いが、以下の通り改正されます。
子育て期間中の働き方の見直し
- 3歳までの子を養育する労働者について、短時間勤務制度(1日6時間)を設けることを事業主の義務とする
- 3歳までの子を養育する労働者について、所定外労働を免除する制度を設けることを事業主の義務とする
- 子の看護休暇制度を拡充する(小学校就学前の子が、1人であれば年5日(現行どおり)、2人以上であれば年10日)
父親も子育てができる働き方の実現
- 父母がともに育児休業を取得する場合、育児休業取得可能期間を、子の年齢が「1歳」から2人合わせて「1歳2ヶ月」に達するまでに延長する(なお、父母いずれか1人で取得する休業期間(母親の産後休業期間を含む。)の上限は、現行と同様で1年間のままです。)
- 本来、育児休業は子ども一人につき1回しか取得できないが、妻の出産後8週間以内の育児が難しい期間に、父親がスポット的に育児休業を取得した場合、特例として、後日再度の育児休業の取得を認める
- 労使協定により「専業主婦の夫などは育児休業の取得対象外にできる」という法律の規定を廃止し、すべての父親が必要に応じ育児休業を取得できるようにする
実効性の確保
- 育児休業の取得等に伴う苦情・紛争について、都道府県労働局による紛争解決の援助及び調停委員による調停制度を設ける
- 勧告に従わない場合の公表制度や報告を求めた際に虚偽の報告をした者等に対する過料を設ける
上記「父親も子育てができる働き方の実現」については、常時100人以下の労働者を雇用する事業主である場合は、施行日が2012(平成24)年6月30日となり、2年間の猶予期間が設けられる予定です。
<参考>
厚生労働省ホームページ(育児・介護休業法の改正について)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/tp0701-1.html -
2010年1月5日
改正労働基準法と労働時間管理
2010(平成22)年4月に労働基準法が改正されます。今回は、「少子高齢化の進行」「労働力人口の減少」「子育て世代の男性を中心とした長時間労働の増加」などの問題が顕在化し、その解決手段としての「社会と生活の調和のとれた社会実現」「労働者の健康確保」「長時間労働の抑制」などを背景として改正され、「労働時間管理」が重要なポイントとなっています。
今回は、改正労基法の概要と、重要なポイントになる労働時間管理について解説いたします。改正の概要
今回の主な改正内容は以下の4つです。
- 特別条項付き36協定の必要要件の追加
- 1ヶ月60時間を超える時間外労働の割増賃金率アップ
- 代替休暇制度の導入
- 時間単位年休制度の導入
特徴は、改正内容が全て「時間」に関わる部分であることです。この改正に伴い、今後、労働基準監督署の調査が行われる際も、労働時間管理について今まで以上に厳しく指摘されることが想定されます。
それでは、次に労働時間管理について解説いたします。労働時間の適正把握
毎日の始業・終業時刻の確認を、タイムカード、IDカード、パソコン入力などの電子媒体などを使って客観的に管理・記録している事業所が多くなってきています。そのような電子媒体による管理ではなく、MicrosoftExcel等の表計算ファイルや紙媒体などで自己申告により確認を行っている場合、厚生労働省より以下の措置を講じなければならないと通達がでています。
- 労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことについて、従業員に対し十分な説明を行うこと
- 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致してるか否かにつき、必要に応じて実態調査をすること
- 時間外労働の時間数に上限を設定するなどの措置を講じたり、慣習を作らないこと
表計算ファイルや紙媒体により勤怠管理をしている場合、上記3つについて確認が行われることが想定されますので、注意する必要があります。
<参考>
厚生労働省ホームページ(労働時間の適正な把握のために使用者が構図べき措置に関する基準について)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0406-6.html残業代の適正計算
残業代を計算するに当たっては、計算基礎となる時間当たりの賃金(時間単価)を求める必要があります。その際、割増賃金の計算基礎から除外できる賃金は、労基法上、以下のように定められています。
- 家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当
- 臨時に支払われる賃金(賞与、コミッションなど)
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(精皆勤手当など)
上記の名目以外で支払われる賃金は、全て割増賃金の計算基礎に含めなければなりません。ただし、家族手当は、扶養家族の有無や数によって算定される手当であればよいので、生活手当や物価手当という名目であっても、実質的に家族手当と判断されれば算定基礎から除外していいことになっています。住宅手当については、住宅にかかる費用に応じて何割かを賄うような手当のことをいい、家賃などに関わらず定額支給されているものは住宅手当とみなされません。労働基準監督署による立ち入り調査などが行われる場合、就業規則の賃金規程や賃金台帳をもとに、実際の残業代に不足がないか電卓を叩いて確認されることもあります。
管理監督者の適正な取扱い
労基法第41条の管理監督者に該当する場合は、労働時間、休憩・休日の規定が適用されないため、深夜労働の割増賃金の支払いを除いて割増賃金を支払わなくてよいことになっています。そのため、労基法に規定する管理監督者に該当するか否かの判断が重要なりますが、具体的には、以下のような事項に照らして判断されます。
- 経営者と一体の立場にあること。
- 自己の勤務時間について自由裁量を有していること。
- 給与面の処遇について優遇措置があること。
上記に基づき、管理監督者の取り扱いについて最低限クリアすべきポイントは以下の通りです。
- 採用、考課などの人事権が与えられる等、管理監督の権限をもっており、肩書きだけの「管理職」でないこと
- 遅刻・早退による賃金カットを行っていないこと
- 役職手当などで給与の 上乗せをし、非管理職の給与との逆転現象がおこっていないこと
- 深夜勤務(22時から翌5時の時間帯の勤務)の割増賃金を適正に支払っていること
労働基準法上の管理監督者を拡大解釈して残業代を支給しない、いわゆる「名ばかり管理職」の問題が取りざたされて以降、労働基準監督署は、厳しい指導を行っていますので、注意が必要です。
健康管理の適正実施
労働安全衛生法によ、長時間労働者に対して医師による面接指導に関する定めがあります。具体的には、使用者は、以下1.に該当する労働者に対して面接指導の実施義務があり、2.と3.に該当する労働者に対しては面接指導等の措置を講ずる努力義務があります。
- 1ヶ月あたり100時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる労働者
(労働者からの申出により実施) - 1ヶ月あたり80時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる、または健康上の不安を有している労働者
(労働者からの申出により実施) - 事業所で定める基準に該当する労働者
(事業所の規定により実施)
なお、3.の「基準」の定め方についてですが、時間外・休日労働が1ヶ月あたり45時間を超えて長くなるほど脳・心臓疾患の発症との関連性が強まると言われていますので、例えば「1ヶ月あたり45時間を超える時間外・休日労働を行う労働者」に対して医師による面接指導を実施する、と定めるとよいでしょう。
医師による面接指導の結果を受け、必要な場合は、「労働時間の短縮」「深夜業の回数の減少」「働く場所の変更」「作業の転換」などの措置を検討してください。
人事労務