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人事労務

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  • 2009年12月1日

    産業保健体制(2)

     長時間労働などが原因でうつ病を発症したとして労災認定されたり、会社に損害賠償を求める訴訟が増えています。
     前回、産業保健体制の法定部分について解説いたしましたが、メンタルヘルス対策を強化するためには、前号でご説明した法定の対応に加えて、次のような対策を講じることが考えられます。

    精神科顧問医の選任

     産業医は、社員の健康管理や緊急時対応など、内科・外科的な分野を求められることが多いです。そのため、産業医は内科や外科の経験がある医師を選任し、さらに、メンタルヘルスに関する対応のため、精神科医を顧問医として契約することが望ましいでしょう。

    メンタルヘルス研修の実施

     メンタル不調者の発生を防ぐためには、社員のメンタルヘルスに関する理解を深める必要があります。そのため、メンタルヘルスに関する研修を実施します。メンタルヘルスの基礎知識はもちろん、自分でも気づかないうちに蓄積しているストレスのケア方法を学習するだけでも予防策になります。また、上司が部下の精神的なケアができるような知識の習得を目的とした研修も実施するとよいでしょう。メンタル不調による労災認定の背景には、上司によるパワハラが関係していることも少なくないため、パワハラ対策をすることも、広い意味で予防策となります。

    メンタルヘルス対応型休職・復職プログラムの作成

     メンタル不調者が実際に発生したときの対応方法を明確にします。自社の業務内容や特性に合ったメンタル不調者の休職・復職プログラムを作成することで、社員に安心感を与え、労使間のトラブルも未然に防ぎます。
     メンタルヘルスに対応した休職制度構築のポイントは次のとおりです。

    1. 従業員が受診している担当医のみの判断に依存せず、復職前に必ず会社指定の医師の診断を行い、正確な復職判定を行う。あくまでも最終決定は会社が行う。
    2. 休職中も定期的な状況確認をし、本人の同意の下で家族との情報交換も行い、労働者の回復をサポートする。
    3. 休職事由に「精神疾患による労務の不完全提供」を明記し、無理な就業を禁止する。
    4. 休職制度の濫用を防ぐため、一定期間内の同一事由による再休職は休職期間を通算する。
    5. 復職後も産業保健スタッフや医師の定期的な面談等を実施し、回復状況を確認する。

    組織診断の実施

     業務に起因するメンタル不調者がいる場合には、個人の問題ばかりでなく、職場環境に改善すべき点があるケースも多いです。組織診断は、組織の問題点を洗い出し、組織を改善・活性化するための有効なツールとなります。
     組織診断には様々な種類があり、いろいろな機関が実施していますが、選択の際には以下の点をご確認ください。

    1. 個人別結果が各人へフィードバックされる。
    2. 社員のストレスと職場環境との因果関係が把握できる。
    3. グループや所属別の結果が分析できる。
    4. 会社に対して、統計処理された情報が提供される。(個人結果が保護される)

    相談窓口の整備

     ストレスやメンタルヘルスに関する相談窓口を設置します。また、セクハラ・パワハラ対応窓口やキャリア相談窓口なども整備すれば、より社員の安心感を向上させ、労使間トラブルのリスクを軽減することもできます。

  • 2009年11月4日

    産業保健体制(1)

     メンタル不調者が増加する昨今、労災認定される精神疾患件数が増加しており、企業のリスク防衛としてメンタルヘルス対策が不可欠となっています。そこで、企業の「産業保健体制」について、2回に渡り解説いたします。
     今回は、法律で求められている産業保健体制について確認します。

    産業医の選任

     産業医は、労働安全衛生法(以下、安衛法)により従業員50人以上の事業所に選任義務があります。産業医の役割は以下の通りです。

    1. 従業員の健康管理
    2. 従業員の就業可否の判断・就業支援
    3. 医療機関との情報交換
    4. 衛生委員会への参加・職場環境改善のための助言
    5. 感染症の予防
    6. 緊急医療対応等

     産業医は、得意分野や専門分野が多彩です。以下のような点に注意し、自社の状況に合った産業医を選任することが大切です。

    1. 自社に必要な分野の知識や経験を有している医師
    2. 自社の産業分野に関する知識や経験を有している医師
    3. 企業の立場に立った判断ができる医師
    4. 十分な臨床経験を有している医師

    衛生管理者の選任

     衛生管理者は、安衛法により従業員50人以上の事業所に選任義務があります。
    衛生管理者は国家資格であるため、国家試験に合格する必要があります。下記の衛生委員会の中心メンバーや事務局がこの資格を取得していることが望ましいでしょう。

    衛生委員会の実施

     衛生委員会は、安衛法により従業員50人以上の事業所に対して設置と月1回以上の実施義務があります。審議事項は以下の通りです。

    1. 健康障害防止のための基本対策
    2. 健康の保持増進のための基本対策
    3. 労働災害の原因及び再発防止対策
    4. 健康障害の防止及び保持増進に関すること等

     衛生委員会は法的実施事項を形式的に実施するのではなく、効果的な運用を行うことによって企業内の様々な環境改善が図れます。そのポイントは次のとおりです。

    1. トップの明確な方針の下での実施
    2. 委員会メンバーから職場環境に関する様々な意見を吸い上げ、改善を実施する
    3. 審議事項の範囲を限定しない(これにより様々な改善活動が実施できる)

     なお、上記の事業所が建設業等の一定の危険業務に該当する場合などは、衛生委員会とは別に安全委員会の設置と月1回以上の実施義務があります。(ただし、衛生委員会と合同で「安全衛生委員会」として実施することもできます)

    過重労働対策

     主に労働時間管理をいいます。安衛法により、「時間外・休日労働が1ヶ月当たり100時間を超える長時間労働者であって、申出を行った者」については、医師による面接指導が義務付けられています。また、面接指導の結果、必要に応じて労働時間の短縮等の措置も講じなければなりません。精神疾患の労災認定で特に重点を置かれるのが過重労働であったか否かです。このため、申出のない従業員であっても、月80時間以上の時間外労働を行っている者については、医師による面接指導等を実施することがリスク逓減に繋がります。

    健康診断

     安衛法により、入社時及び毎年1回、従業員の健康診断を行うことが義務付けられています。また、海外に6ヶ月以上派遣しようとするときや派遣していた労働者を帰国させるときに、「海外派遣者の健康診断」として定期健診とは別に健康診断を行う必要があります。

    休職規定の整備

     常時10人以上の従業員を有する企業が休職制度を設けた場合、就業規則にその制度を掲載する必要があります。
     休職制度の設置自体は義務化されていませんが、従業員が私傷病により長期間欠勤する時のルールを明確にすることは、従業員の安心感を醸成するとともに労使の紛争回避に繋がります。休職に関する多くの判例の中でも、休職ルールが適切に運用されていたか否かが注目されています。休職制度を整備し、規程化して従業員へ周知することがリスク逓減に繋がります。

  • 2009年10月1日

    新型インフルエンザ罹患者への対応

     秋以降にインフルエンザ第2波の襲来が懸念されている中、企業においても感染者が発生した場合など、万が一に備えた対策や予防策の強化が求められています。
     そこで今回は、新型インフルエンザに対する会社の対応について解説いたします。

    出社中の社員に医療機関で診察を受けさせる場合の取扱い

     新型インフルエンザの罹患は、原則として、「私傷病」と考えられるため、医療機関への移動時間や診察を受けている時間は、労働時間に該当しません。新型インフルエンザが感染性のある疾病である以上、罹患の恐れがある社員を速やかに医療機関に行かせることは当然の措置であると考えられます。従って、医療機関への移動や診察に要した時間は労働時間ではないと考えるのが一般的です。
     ただし、例えば、出張で感染の発祥となったメキシコやアメリカに行き感染してしまった場合や、感染者である取引先担当者と長時間商談したために感染してしまった場合など、業務を遂行する上で新型インフルエンザに罹患したと考えられるときは、業務上の疾病として、医療機関にかかる時間を労働時間として取り扱うべきと考えられます。

    新型インフルエンザの罹患が確定し自宅待機させる場合

     新型インフルエンザ罹患者は、労働安全衛生法などに定める「就業禁止」の対象となっていますので、新型インフルエンザに罹患していることが明確である場合は、罹患した社員に対し自宅待機を命じることは当然の行為です。
     医師や保健所の指導に基づき社員を自宅待機させる場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」つまり会社都合の休業に該当しませんので、休業手当を支払う必要はありません。
     ただし、医師や保健所による指導や協力要請の範囲を超えて休業させる場合などは、会社都合による休業に該当しますので、休業手当を支払う必要があります。

    新型インフルエンザに罹患した可能性があるため自宅待機させる場合

     新型インフルエンザに罹患したかどうか明確でない時点で、体調不良や発熱などの理由から社員が自主的に休む場合は、通常の病欠と同様に取り扱うことになります。一方で、発熱の症状があることを理由に会社の自主的な判断で社員に自宅待機をさせる場合は、会社都合による休業に該当しますので、休業手当を支払う必要があります。

    家族が罹患した、または罹患の可能性がある場合に自宅待機させる場合

     社員の家族が罹患、又は罹患の可能性がある場合については、濃厚接触者として、社員本人も罹患している可能性が高いと判断されます。従って、出社すれば他の社員に感染させる恐れがありますので、会社の予防策として、一定期間の自宅待機を命じることは可能です。
     保健所による外出自粛の協力要請などにより社員を自宅待機させる場合は、会社都合よる休業には該当しませんので、休業手当を支払う必要はありません。ただし、行政協力とは無関係に、会社の判断で自宅待機させる場合には、会社都合による休業に該当しますので、休業手当を支払う必要があります。

  • 2009年9月1日

    内定取消の留意点

     厚生労働省の調査によると、この数年、離職者が増加しており、完全失業者の理由を見ると「人員整理・退職勧奨(29万人)」、「業績不振や先行き不安(13万人)」、「会社倒産・事業所閉鎖(9万人)」の順に続きます。そんな中、いわゆる「内定取消」に関するトラブルもよく聞かれます。

     今回は、「内定取消」について解説いたします。

    内定取消とは

    1. 内定の法定意義
      使用者が採用内定を行い、それに対して学卒予定者等が誓約書を提出すれば、その時点で使用者の解約権が留保された労働契約が成立したものとされます。
    2. 内定取消が認められる場合
      採用内定の取消は、取消の理由が内定当時知ることができなかったか、知ることが期待できないような事実であって、社会通念に照らして相当と認められる場合に可能とされています。

    内定取消事由の例

    1. 提出した書類に虚偽の事実を記入した場合
    2. 就業開始日(新卒者の場合4月1日)までに卒業できなかった場合
    3. ケガや病気等により、正常な勤務ができなくなった場合
    4. 内定時に想定しえなかった経済情勢の急激な悪化により人員削減の必要性が生じた場合
    5. その他、社員として適当でないと認められる言動があった場合

    業績悪化による内定取消

     業績悪化による内定取消は、内定者側に帰責性がある場合と異なり、内定を出してからわずか数ヶ月でこれを取り消すに至ったことは企業側に帰責性があるものと評価されることから、その合理性や相当性については他の事由に比べて厳格に取扱われます。

    内定取消に関するリスク

    1. 労働契約上の地位確認の訴訟
      内定者が、内定取消の無効を主張し、就業開始予定日以降について「労働契約上の権利を有する地位」の確認を求める訴訟を提起することが考えられます。
    2. 金銭賠償
      内定者が金銭賠償を求めることが考えられます。

    判例を見てみましょう。

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     ヘッドハンティングにより前企業を退職した中途採用者について、業績不振により経費削減計画が進行し、配属の予定されていた部門自体が存続しないこととなったことなどから、他の職種での採用を提案したものの、これを拒否されたため、内定を取り消した事案。裁判所は、企業経営の悪化等を理由に内定の取消をする場合の有効性の判断基準として、「整理解雇の4要件」を準用しています。それによると、企業がすでに就労している従業員を整理解雇するのではなく、採用内定者を選定して内定取消をする、という選定方法については格別不合理ではないとしたものの、内定取消前後の対応の不誠実さや内定取消による内定者の不利益を総合考慮し、内定取消を無効としています。
    (東京地決H9.10.31 労判726号37項)

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     中途採用内定者に対し、海外旅行情報誌の企画営業業務に従事させると信頼させて、本人に大手旅行代理店を早期退職させながら、入社直前に当該情報誌発行事業の規模縮小を理由に他業務へ配属先変更を告知し、これを了解しなかったことから内定を取り消した事案。
     裁判所は、当該内定取消を違法と判断し、その態様、経過、内定取消の結果、7ヶ月半にわたり失業状態に置かれたこと、不法行為に基づく損害賠償額(慰謝料)として、転職前会社の7ヶ月半分の賃金に相当する165万円、弁護士費用として20万円を認定しています。
    (東京地判H15.6.30 労判851号90項)

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     内定取消は、企業にとって様々なリスクを伴う行為です。内定取消しについて慎重に検討し、内定取消の対象となった方に対して、充分な説明を行い就職先の確保に向けた支援を行うなど、誠意をある対応が求められているのではないでしょうか。

  • 2009年8月4日

    年俸制の導入

     なお続く厳しい経済環境の中、多くの企業にとって人件費の適正化は重要な経営課題になっています。一方で安易な人件費削減は、キーパーソンの社外流出という危険をはらんでいます。
     この問題を解決するべく、これまでの年功序列式の賃金体系から成果主義型の賃金体系への転換を検討している企業も多いかと思います。

     今回は、成果主義型賃金の典型ともいえる年俸制の導入について解説いたします。

    年俸制とは

     年俸制とは賃金額を年単位の契約で決定する制度です。賃金決定にあたり社員の業績目標に対する達成度を反映させたい場合に適した賃金制度です。ただし、労働基準法の毎月1回以上支払いの原則から、実際の運用では締結した年俸額を12ヶ月で分割して毎月支給するか、年俸に賞与相当分を含む場合は12ヶ月+賞与対象月数で分割した額を毎月支給することになります。

    年俸制導入のプロセス

     年俸制導入、運用のプロセスの概要は以下の通りです。

    1. 年俸制の対象社員の範囲、年俸の体系、役割ごとの年俸額の決定等、年俸ルールを確定し、併せて、適正な評価基準を確定
    2. 経営計画の策定と目標管理制度の導入
    3. 就業規則の変更や年俸の支払方法等の労働基準法上の必要手続の完了
    4. 年俸制対象社員による業務目標の設定、社員との面談による年俸額の決定
    5. 年俸期間後の業績評価の実施、新年俸の決定

    年俸制と割増賃金

     年俸制の適用者であっても、その労働者が管理監督者や裁量労働制の適用者で時間外割増賃金(深夜割増賃金を除く)の適用除外者でない限りは、法定労働時間を超えて労働させた場合には時間外割増賃金の支払が必要となります。
     この割増賃金の算定に際して、仮に年俸額を16分割して毎月16分の1を毎月支給し、残りの16分の4を年2回の賞与として支給すると定めている場合には、その賞与対象分も割増賃金額の決定の際の算定対象とする必要がありますので注意が必要です。

     なお、以下の条件を満たしている場合には、年俸額に一定時間分の割増賃金が含まれているものとして定めることができ、割増賃金相当分として定めた時間を超えない限り、毎月の年俸額に割増賃金を上乗せして支払う必要はありません。

    1. 年俸額に具体的な時間分に対応する時間外労働割増賃金が含まれていることが明らかであること
    2. 通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金相当分が区分することができること
    3. その割増賃金相当分が法定の割増賃金額以上であること

    年俸制の年度途中の変更は認められるか

     原則として、一度定めた年俸額を年度の途中で変更することはできません。
    ただし、就業規則、労働契約で予め年俸額を変更する可能性があることを定めており、その内容が合理的に認められるものであれば変更できる余地が残されます(例:職位の変更による年俸改定、等)。また、このような取り決めがない場合にも、対象となる個々の労働者から同意を得ることで年俸額の変更をすることができます。

     年俸制は「魔法の薬」ではありませんが、適切な導入・運用を行えば、社員の貢献を公平に評価し賃金に反映することが可能な制度のひとつです。社員のモチベーションアップ、生産性の向上ひいては企業の業績向上につながります。

  • 2009年7月1日

    派遣契約の中途解除の問題

     ライフスタイルの多様化や企業側のニーズによって、「派遣労働者」は増加の一途でありました。しかし、昨年来の不況によって、企業における派遣労働者のニーズに陰りが見え、いわゆる「派遣切り」など派遣労働者の雇用に関する問題が話題を呼んでいます。
     厚生労働省は、このような問題を背景に、派遣契約の中途解除に伴う解雇や雇い止めに対処するべく、2009(平成21)年3月31日に「派遣先が講ずべき措置に関する指針」を改正しました。
    今回は、指針改正に伴い派遣先に求められる対応を解説いたします。

    派遣契約の中途解約

     「派遣先が講ずべき措置に関する指針」の改正に伴い、2009(平成21)年3月31日以降に派遣契約を中途解除する場合は、派遣先(派遣労働者を受け入れていた事業主)は、以下の2通りの措置を行う必要があります。

    1. 派遣労働者の新たな就業機会の確保をすること(関連会社での就業を斡旋するなど)
    2. 上記1.ができないときは、少なくとも中途解除によって派遣元に生じた損害の賠償を行うこと

    「損害賠償」の具体的な中身とは

     上記2.における「派遣元に生じた損害を賠償すること」とは、具体的には何を指しているでしょうか。
     派遣契約の満了を待たずに派遣先の都合で中途解除されることによって、派遣元の事業主は、本来の契約期間の満了日までの間、中途解除の対象となった派遣労働者を、会社都合で休業させ、その上で契約更新を行わずに雇い止めしたり、もしくは止むを得ず解雇することになります。
     契約期間の満了日まで休業させる場合は、派遣元の事業主は、会社都合の休業として休業手当の支払いが、即時解雇を行わざるを得ない場合には解雇予告手当の支払いが必要になります。
     このような、派遣先の都合によって派遣契約を中途解除されたことによって、派遣元の事業主が負担しなければならなくなった金銭を賠償しなければならないというのが、「派遣元に生じた損害を賠償すること」です。
     仮に派遣先の中途解除による賠償についての取り決めが契約書で規定されていなくても、指針に則り補償を行わなければならないとされています。比較的長期の派遣契約を締結している場合は、中途解除を行うとき、派遣元に対する休業手当の補償するなど多額となることもあり、注意が必要です。

    <参考>
    厚生労働省ホームページ(派遣先が講ずべき措置に関する指針)
    https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/s02.pdf

    厚生労働省ホームページ(派遣先の事業所の皆様へ)
    http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/dl/h0331-21c.pdf

  • 2009年6月1日

    賃金カット

     世界的な不況のあおりで、経営者にとっても労働者にとっても、厳しい経済環境が続いています。経営難を乗り切るため、「賃金カット」を行う例も見受けられます。
     「賃金カット」は労働条件の不利益変更にあたりますので、注意が必要です。今回は、この「賃金カット」について解説いたします。

    労働契約の変更

     使用者と労働者の間には労働契約が存在します。この労働契約は使用者、労働者双方の合意により成り立っていますので、変更する場合もその当事者、つまり、使用者と労働者の合意がなければできないのが原則です。また、賃金は労働契約の中でも最も重要な労働条件ですので、使用者が一方的に労働者に不利になるように変更することはできません。したがって、契約内容を変更し賃金カットを行うためには各社員の同意を得る必要があります。その一方で、最高裁は、不利益変更であっても、その変更が「合理的なもの」であれば、個別の同意を得る必要はないとしています。つまり、合理的な賃金カットと判断されれば、同意しない社員についても、同意する社員と同様に適用させることができます。

    社員の同意を必要としない「合理的な賃金カット」とは

     賃金カットが「合理的」であるためには、賃金を引き下げざるを得ない経営上の必要性があり、使用者に社員が被る不利益を極力小さくするための努力が見られ、減額の幅や方法等も妥当な範囲内である必要があります。

    「合理的な賃金カット」の問題点と実務上の留意点

     前述のとおり、法的には社員の同意がなくても、賃金を引き下げることは可能となりますが、社員から不満がでることは避けられません。また、賃金カットが、個々の社員の同意を必要としないような「合理的」なものであるかどうかの判断は、最終的には裁判に委ねられることになります。そしてその合理性の判断は、かなり厳格に(会社側に厳しく)解釈されています。
     したがって、「こんな経営状態だし、これだけ配慮しているのだから大丈夫だろう」と安易に賃金カットを実施することはとても危険です。以下のような事項に留意し、各社員の同意を得られるような努力が必要です。

    1. 賃金引き下げの限度
      明確な基準が設けられているわけではありませんが、引き下げ後の実額水準、減少率について考慮する必要があります。過去の判例で、引き下げ後も賃金水準が世間相場より高額であったにもかかわらず、減額の幅が大きいことから無効とされた例があります。
    2. 社員に対する説明
      なぜ賃金カットを行わなければならないのか、その経緯や具体的な経営状況を十分に説明します。不十分な説明の場合、社員の納得を得られないだけでなく、会社がおかれている状況を実際以上に深刻に受け止め、社員のモラール低下につながる心配があります。
      また、比較的短期間に改善の見通しが立つのであれば、賃金引き下げの期間を限定し、期間経過後にはもとの水準に戻すなどの方針を説明することで、社員の会社に対する不安や不満を和らげることも可能です。
  • 2009年5月8日

    出向制度の導入

     出向は、雇用機会の維持確保、海外進出、職業能力開発などの研修や企業グループ内の人事交流の一環など、さまざまな場面で発生しうる労働形態です。
     会社が出向制度を導入するにあたって、押さえておくべきポイントを解説いたします。

    出向とは

     出向とは、労働者が自己の使用者(出向元)の指揮監督下から離れて、第三者(出向先)の下で指揮監督を受けて労務の提供をすることをいいます。

    労働者に出向を命じるには

     労働者へ出向を命じるためには、事前に以下のいずれかの準備が必要です。

    1. 労働者の個別同意を得る
    2. 就業規則や労働協約に出向に関する規定を定め「包括的同意」を得る

     上記は、出向に関する最初の裁判例である日立電子事件(東京地裁S41.3.31)で確立されたもので、以降の裁判にも大きく影響を与えています。

     では、上記1.2.のいずれかを準備さえすれば、全ての出向が認められるのかというと、必ずしもそうではありません。出向を命じるときには、出向命令に業務上の必要性(労働力の適正配置、業務の能率増進、能力開発など)があり、出向者の選定にも合理性があることが必要です。これら業務の必要性や労働者選定の合理性が認められないような場合は出向命令が無効となります。このことは、労働契約法第14条に定められています。

    =====
    労働契約法第14条
    使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
    =====

    「個別同意」と「包括的同意」の取り付け方

     「個別同意」と「包括的同意」の具体的な中身については、以下の通りです。

    ◆個別同意

    1. 下記の事項を定めた「出向同意書」を作成します。
      • 出向先
      • 勤務地
      • 業務内容
      • 出向期間
      • 出向中と復職後の労働条件(賃金、勤務時間、休憩・休日・休暇、社会保険、福利厚生、復職後の所属など)
      • 出向社員の署名捺印欄
    2. 出向社員へ出向同意書を提示、署名捺印を得る。その際、同意書は2部作成し、会社と出向社員とで各1通を保管します。

    ◆包括的同意

    1. 1.下記の事項を「就業規則」、「労働協約」で規定します。
      • 会社は業務上の都合により、労働者を出向させることがある旨
      • 正当な理由なくして出向命令を拒むことが出来ない旨
      • 出向の事由
      • 出向先
      • 勤務地
      • 業務内容
      • 出向期間
      • 出向中と復職後の労働条件(賃金、勤務時間、休憩・休日・休暇、社会保険、福利厚生、復職後の所属など)
    2. 規定内容について労働者代表または労働組合の意見、同意を得ます。(なお、就業規則を変更する場合は、労働基準監督署へ就業規則変更の届出が必要になります。)
    3. 全労働者に周知する。

    就業規則変更に伴う留意点

     出向に関する規定を新たに設けることにより就業規則を変更した場合、その出向に関する規定の効力が、変更前に入社した労働者に及ぶかについて留意する必要があります。出向に関する規定を新設することが、労働条件の不利益変更に該当する場合があるからです。

  • 2009年4月1日

    整理解雇

     景気の先行きが不透明な中、やむを得ず人員削減の必要が発生することがあります。
     今回は、「整理解雇」に関する基本的な考え方を整理いたします。

    解雇とは

     解雇とは、使用者による一方的な意思表示によって労働契約を消滅させることをいいます。労働契約に期間の定めがないときは、使用者はいつでも労働者を解雇できるのが民法の原則ですが、終身雇用が一般的であった日本の労使関係下において解雇権の行使を制限すべきとの議論がなされ、旧労基法18条の2、および労働契約法16条において「解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当ものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである」として、解雇権濫用法理が確立されています。

    整理解雇とは

     整理解雇とは、不況や業務量の減少等で会社の経営が悪化したため、労働者の一部または全部の雇用が維持し難い経営状況に陥った場合に行う人員整理を目的とした普通解雇のことをいいます。整理解雇は企業経営が悪化すれば企業の判断のみで実施することもできますが、労働者側に解雇される責任がなく、使用者側の事情によって一方的に労働契約を解約するものであるため、一般の解雇以上に厳格な制約が課されています。それが次の「整理解雇の4要件」といわれるものです。

    整理解雇の4要件とは

    1. 人員削減の必要性
    2. 解雇回避の努力
    3. 被解雇者選定の合理性
    4. 手続きの妥当性

     使用者は上記の4要件に沿った整理解雇をすることが必要であり、これを怠ると解雇権の濫用としてその整理解雇は無効になります。
     なお、4要件の解釈については、4要件のすべてを満たすべきとする立場と、4要件は解雇権濫用の「判断要素」であり総合考慮して判断すべきとする立場とに、見解がわかれています。実務上は、4要件すべての充足を念頭におくべきでしょう。

    <参考>
    4要件を充足しなければならないとする近年の裁判例
    ・代々木運送事件(昭和61年12月5日大阪地決)
    ・池貝鉄工所事件(昭和62年10月15日横浜地判)

    4要件の詳細について

    1. 人員削減の必要性
      人員の削減をする経営上の必要性があることをいいます。整理解雇をしなければ会社の存続が危ないとまでの必要性は要求されません。また再就職の便宜等の配慮や十分な状況説明等があれば、採算性向上の目的でも、必要性があると判断されます。
    2. 解雇回避の努力
      整理解雇する前に希望退職等、整理解雇を回避する手段を尽くしていることをいいます。一般的には、賃金カット、パートの雇止め、時短、希望退職募集等の措置があります。しかし、「これをしていなければ整理解雇が無効となる」というような一律の基準はなく、判断はケース・バイ・ケースのようです。
    3. 被解雇者選定の合理性
      被解雇者の合理的な解雇基準の設定があり、それが適正に運用されていることをいいます。選定者の主観が入り込む基準は合理的とされません。次のような内容の整理解雇の人選基準については、裁判例でその合理性が認められています。
      • 会社の業務に協力せざる者
      • 職務怠慢な者
      • 事故欠勤多き者
      • 病気による長期欠勤者 等
    4. 手続きの妥当性
      労働者側と誠実に協議をしていることをいいます。裁判例では、労働者側より「同意」が得られない場合であっても、会社が誠意を尽くして労働者との協議を重ねたうえでの客観的に合理性のある整理解雇であるならば、労働者側の同意がなくても整理解雇の実施を認めているケースもあります。

     最近の裁判例の傾向では、「会社の経営状態の著しい悪化」があるからといって直ちに「人員削減の必要性あり」と認定されているわけではありません。裁判所は、具体的な経営状況に照らし、具体的に、厳密に、慎重に判断した上で必要最小限の整理解雇を行うことを求めているようにも思われます。

  • 2009年3月2日

    非正規社員の雇い止め

     厚生労働省の調査によると、2008(平成20)年10月から2009(平成21年)年3月までに、全国で約12万5千人の非正規社員が雇い止めされることがわかっています。非正規社員の雇い止めや解雇は、企業にとっては即効性のある経費削減策といえるかもしれませんが、その方法や条件について判断を誤ると、労働基準監督署から行政指導を受ける可能性があり、また、最悪の場合、労使間のトラブルに発展し訴訟となるケースもあります。

     今回は、非正規社員の雇い止めに関する有効性の判断基準と、それに伴い企業がとるべき対応について解説いたします。

    雇い止めとは

     雇い止めとは、有期雇用契約の期間満了に際し「契約更新を会社が拒絶する」ことを言います。契約期間満了に伴う「雇い止め」であっても、契約更新の繰り返しにより、一定期間雇用を継続したにもかかわらず、突然契約更新をせずに期間満了をもって退職させるなど、一定の要件を満たす場合には、「解雇」と同様に扱われ、解雇権の濫用であるとして無効となることがあります。

    雇い止めが有効となる判断基準

     雇い止めについて争われた裁判例を見ると、有期雇用契約の雇い止めに関して、契約期間の満了により当然に契約関係が終了するものと判断された事案ばかりでなく、解雇として取り扱われ、結果として雇い止めが認められなかった事案も少なくありません。
     そのような有効・無効の判断が下される基準として、以下のような項目が挙げられます。

    1. 従事する仕事内容や勤務形態が、正社員とどの程度同じなのか
    2. 対象者の労働条件が、正社員とどの程度同じなのか
    3. 継続雇用を期待させる当事者の言動や認識があったかどうか
    4. 反復更新の有無・回数、勤続年数等の状況はどうか
    5. 会社は更新手続きの有無・時期、方法、更新の可否の明示を適切に行っていたか
    6. 同様の地位にある者の雇止めが過去にあったかどうか
    7. その他有期労働契約を締結した経緯等が特殊であったかどうか

     ポイントは「雇用継続の期待」です。これらの項目は全て、雇い止めの対象者が抱く雇用継続の期待の有無とその度合いを判断する項目になっています。裁判では、これらの判断基準を総合的に勘案して、雇い止めが有効かどうかを判断しています。

     例えば、3についていえば、採用又は契約更新時に社長や人事担当者から「雇用契約書は形式的なものであり、あなたにはずっと働いてほしい」などの説明を受けた場合などが該当します。説明を受けた本人に雇用継続を期待させるような環境があったとされ、雇い止めを行ったとしても、解雇権濫用とし無効とされる傾向にあります。

     さらに、4についていえば、更新手続きが面倒という理由で、特に労働者と面談をせず、契約の更新手続きも行わないまま、契約が自動更新になっているような場合などが該当します。この場合、今後も当然のように契約は更新されるものだと労働者は期待してしまいますので、やはり雇用継続の期待から雇い止めは無効と判断される可能性が高くなるでしょう。

     このように、雇い止めに関する裁判は「雇用継続の期待」があったかどうかが争いの焦点になります。

    <参考>
    独立行政法人労働政策研究・研修機構ホームページ(有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告)
    https://www.mhlw.go.jp/www2/kisya/kijun/20000911_01_k/20000911_01_k.html
    東京労働局ホームページ(有期契約労働者の雇用管理に関するガイドライン)
    https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/entrepreneur/yuki_keiyaku/guideline.pdf

    雇い止めに関するトラブルを防止するための対処法

     有期雇用契約者を雇用する上で、雇い止めに関するトラブルを避けるために、企業がとるべき対策として、次に掲げる事項が考えられます。

    1. 採用(又は契約更新)時に、労働者に継続雇用の期待を持たせるような言動は慎むこと
    2. 契約更新前に、必ず労働者と面談を行い更新手続きを行うこと
    3. 契約更新しないことが前々からわかっている場合には、契約書の中に「次回の契約更新はしない」旨を明記すること
    4. 雇い止めをする際、少なくとも契約期間満了日の30日前までに、雇い止めの予告をすること

     上記は、雇い止めを行う際のリスクを軽減するために、最低限行わなければならない事項です。必ずしも、これで十分というわけではなく、状況により、労働者の納得、同意を得るため次の措置などを検討する必要があります。

    1. 期間満了までに有給休暇の取得を奨励する、又は未消化分の有給休暇の買い上げ等の措置を行う
    2. 長期にわたって会社に貢献してくれた労働者に慰労金を支給する
    3. 他社への就職を斡旋する

     なお、雇い止めの有効性は、会社の「これまでの」対応に照らして判断されますので、これまで上記のような対応を行っていなかった場合、これから上記の対応を行ったとしても、直近の雇い止めに関しては厳しい判断をされる可能性が非常に高いことにご留意ください。
     雇い止めに関する労使間トラブルのリスクを低減するためには、十二分な期間的余裕をもって適切な対応を行う必要があります。

  • 2009年2月2日

    フレックスタイム制のポイント

     労働者の価値観やライフスタイルの多様化が進み、より柔軟で自律的な働き方への志向が強まっています。
     このような状況の下で、仕事の内容によっては、就業時間をある程度従業員の裁量に任せることで労働効率を上げようとする動きがあります。その典型となるのが、フレックスタイム制です。しかしながら、フレックスタイム制を導入したものの、「時間管理が面倒」「社内のコミュニケーションがとれなくなった」などの理由により、制度を廃止にする企業も見られます。

     今回はフレックスタイム制度について解説いたします。

    「フレックスタイム制」と「コアタイム」とは

     フレックスタイム制は、1ヶ月以内の一定の期間(これを清算期間といいます)における総労働時間を定めておき、従業員はその枠内で始業及び終業の時刻を自主的に決定して働く制度です。従業員の生活と仕事の調和を図りながら、繁閑に応じ効率的に働くことにより、総労働時間を短縮しようとすることを狙いとしているため、残業の圧縮が期待されます。

     フレックスタイム制を導入する際、1日の労働時間を、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、いつでも出社・退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)とに分け、1日のうちの一定時間帯については従業員全員が顔を合わせるような仕組みとすることもできます。
     コアタイムの設定は任意であり、必ず設けなければならないものではありません。1日の労働時間の全部をフレキシブルタイム(フルフレックス)とすることも可能です。

    「清算期間」とは

     フレックスタイム制の下で、従業員が労働すべき「総労働時間」の元となる期間のことで、清算期間の長さは1ヶ月以内に限ります。通常は賃金の計算期間に合わせて1ヶ月とします。

    コアタイム遅刻者への「賃金カット」は可能か

     フレックスタイム制は、従業員は清算期間中における総労働時間を基準に働けばよい制度であるため、コアタイムに遅刻したとしても、清算期間を通じて総労働時間以上働いていれば「不就労」が発生せず、賃金カットをすることはできません。
     そのため、コアタイムの遅刻については、常習者に対する懲戒処分や人事評価でのマイナス査定など、賃金カット以外での対応が求められます。

     また、会社は、コアタイム以外に就業を命じることが出来ませんので、出張の場合などコアタイム以外に就労する必要があるときは、その都度従業員の同意を得なければならなくなります。

     このほか、例えば会議のために毎週月曜日のみ午前10時に出勤させるよう命じる場合にも、週1日といえど始終業時刻の選択の余地をなくすことになるため、やはり、事前に対象従業員の個々の同意が必要となります。

    フレックスタイム制を廃止した企業

     オフィスのIT化が進み、社員同士が顔を合わせなくても、メールやイントラネットを使用することでスムーズに情報が伝達できるようになりました。そのため、フレックスタイム制を導入する企業の拡大が予測されました。
     しかし、制度を導入したものの、全員が顔を揃える時間が少なければ少ないほど、作業効率が落ち、ノウハウや知識の共有がうまくいかなくなってしまったというケースもあり、やはり情報伝達はフェイストゥフェイスのほうがスムーズであるとの判断から、従来の制度へ回帰する動きも見られます。
     情報通信業などのいわゆるIT業界においては、フレックスタイム制を導入して効果を上げている企業も多く、業種や仕事内容で差が出てきているのが実情です。
     また、昨今では、ワークライフバランスを向上させる取組みのひとつとして、労動者の裁量により、自由に出退勤ができるフレックスタイム制の導入を検討している企業も多いようです。

     導入の際は、自社の企業風土及び業務の向き不向きを慎重にご検討ください。

  • 2009年1月5日

    事業場外労働のみなし労働時間制

     社員の雇用形態が多様化し、企業が在宅勤務を取り入れるケースが増加しています。その数は2005(平成17)年で450万人、労働者全体の8.2%に上ると言われています。
     在宅勤務者や営業社員など、常時、事業場外で業務を行う従業員については、どのような労働時間管理を行えばいいのでしょうか。

     今回は、事業場外労働のみなし労働時間制について解説いたします。

     在宅勤務では、自宅で業務が行われるため、労働者の勤務時間帯と日常生活時間帯が混在せざるをえない働き方であり、労働時間が算定し難い働き方です。そこで次の要件を満たす場合には、「事業場外労働のみなし労働時間制」を適用して、実際の労働時間に関わらず「特定の労働時間」労働したものとみなすことができます。

    1. 私生活を営む自宅で業務が行われること
    2. 使用者の指示により、情報通信機器が常時通信可能な状態におくとされていないこと
    3. 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務が行われていないこと

    事業場外労働のみなし労働時間制

     外回りの営業や出張、在宅勤務など事業場外で行う業務は、使用者の具体的な指揮命令が及ばず、労働時間の算定が困難になる場合があります。その場合、実際の労働時間に関わらず「特定の労働時間」労働したものとみなすことができるようにしたのが、事業場外労働のみなし労働時間制です。
     例えば、「特定の労働時間」を所定労働時間の7時間と定めた場合に、実際に労働した時間が9時間であったとしても、1日の労働時間は7時間とみなされます。

    特定の労働時間

     「特定の労働時間」の決定方法には、次の方法があります。

    1. 所定労働時間とする
    2. 事業場外の業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務遂行に必要とされる時間
    3. 上記2による決定において、従業員代表等との話し合いにより労使協定が締結されたときは、その協定に定めた時間

    事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件

     在宅勤務者だけでなく、外回り営業に従事する場合や出張などでも、次の全てを満たしていれば、事業場外労働のみなし労働時間制を適用することができます。

    1. 対象従業員が業務の全部または一部を事業場外で従事している場合
    2. 使用者の指揮監督が及んでいない場合
    3. 事業場外労働のため労働時間の算定が困難な場合

     なお、次の場合は上記3の「労働時間の算定が困難な場合」にはあたらないとされていますのでご注意ください。

    1. 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間を管理する者がいる場合
    2. 事業場外で業務に従事するが、携帯電話やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
    3. 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の具体的指示を受けた後、事業場外で指示通り業務に従事し、その後事業場に戻る場合

    事業場外労働のみなし労働時間制の適用をめぐる状況と注意点

     厚生労働省の統計によれば、9.3%の企業が事業場外労働のみなし労働時間制を採用しています。多くの企業に営業職があると考えると、この数字は少ないように思われるかもしれませんが、事業場外労働のみなし労働時間制を適用するためには、使用者の指揮監督が及ばないという条件が必要ですので、一概に営業社員全員に適用できるわけではありません。過去の判例でも、事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象者に該当するか否かで企業側が裁判に敗訴、残業代を遡って支払ったケースがあります。

     また、「みなし労働」といえども、労働基準法における休憩や深夜業、休日に関する規定の適用は受けますので、休憩時間の確保や深夜勤務、法定休日勤務への割増賃金の支払いが必要になる場合があります。

    <参考>
    厚生労働省ホームページ(情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの改訂について)
    http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/03/h0305-1.html

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