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2008年12月5日
就業ルールの不利益変更(2)
前回、就業規則の不利益変更について解説いたしました。就業規則の変更により労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として禁じられています。
しかし、社会情勢の変動や企業の財政状況の悪化等、一定の条件が揃った場合には不利益変更が認められます。今回は、不利益変更が認められるケースについて解説いたします。
不利益変更が認められる要因
- 不利益変更を行う必要性
会社の財政逼迫、社会情勢の急激な変動等、その不利益変更を行う必要性が高くなければなりません。例えば、会社の運営を維持するために変更が避けられない場合や、会社の統合等により就業規則の統合が必要不可欠な場合などです。 - 変更内容の合理性
変更によって労働者が被る不利益を総合的に考慮してもなお、その不利益を労働者に納得してもらうだけの合理的な内容が求められます。例えば、その労働条件だけをみると不利益を被るが、他の労働条件の向上によりトータルでみると不利益の程度が補填されている場合や、その不利益を認めないことで、事業が廃業してしまう可能性が高い場合などです。
裁判では、労働者が受けることになる不利益の程度と、会社が不利益変更をする必要性、合理性とを総合的に比較して、不利益変更が認められるか否か判断されています。
また、過去の判例では、変更によって労働者が被る不利益を緩和する代替措置や経過措置を取ることが求められています。不利益変更の効力が認められた判例事例
・大曲市農業協同組合事件(最高裁S63.2.16)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/11/s1121-5b.html#1-3
・羽後銀行(北都銀行)事件(最高裁H12.9.12)労働契約法による規定
3月に施行された労働契約法では、過去の判例で示された指針を踏まえ、就業規則変更による労働条件の低下を行う際の要件が定められています。
- 変更が以下の事情から照らして合理的であること。
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合との交渉の状況 - 労働者に変更後の就業規則を周知させること。
企業として不利益変更をする時に注意するポイント
一定の条件を満たすことで、就業規則の不利益変更が認められますが、変更を必要とする背景、状況は会社によって異なるため、単純に過去の判例等を頼りに就業規則の変更を推し進めてしまうのは危険です。不利益変更を行う際、最も重要なことは、如何にして社員の理解を得るかです。以下のような配慮をお勧めいたします。
- 労働条件の低下が必要である事情を、事前に社員へ説明し、理解を得る努力をする。
- 不利益変更による影響を緩和する代替措置、経過措置を設ける。
- パートやアルバイトなど正社員以外の特定層を対象に適用される場合、たとえ正社員でなくとも意見を聴く機会を設ける。
特に、賃金や労働時間の変更を行う場合は、社員に大きな負担を求めることになります。社員の十分な理解を得る努力を怠ると、労働争議に発展することもあり注意が必要です。
- 不利益変更を行う必要性
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2008年11月6日
就業ルールの不利益変更(1)
昨今、世界規模で会社を取り巻く環境が急速に変化しています。厳しさを増す環境に適応するため、労働条件の引き下げ(就業規則の不利益変更)を考えていらっしゃるかもしれません。しかし、一度定めた労働条件を引き下げることは法律により厳しく制限されていますので、そのような変更を行う際は細心の注意が必要です。
今回は、就業規則の不利益変更について解説いたします。
就業規則の変更
就業規則は、一定のルールを守れば、会社が自由に定める事ができます。同様に、その変更も、原則として会社が自由に行うことができます。
その一方で、あらゆる変更を認めてしまうと、労働者に対して一方的に不利な労働条件が突きつけられる恐れがあります。
そのため、「不利益変更」を行う場合については、制限が設けられています。不利益変更とは
不利益変更とは『労働者の労働条件(将来を含む)に不利益を被る可能性のある変更』をいいます。
労働基準法による制限
労働基準法は第1条で同法を根拠にした労働条件の低下を禁じています。例えば、労働基準法では休日を原則として毎週少なくとも1回は与えることを定めていますが、この規定を根拠として、週休2日制を週休1日制に切り替えることはできません。
これまでの裁判による裁判所の見解
労働条件の不利益変更に関しては、裁判所の判断を仰ぐような労使トラブルに発展することが少なくありません。裁判所は、「一方的に不利益な労働条件を課すことは、原則として許されない」(秋北バス事件 最高裁S43.12.25)として、一方的な就業規則の不利益変更を否定しています。
<参考>就業規則変更の効力を否定した主な判例
御國ハイヤー事件(最高裁S58.7.15)
朝日火災海上保険事件(最高裁H8.3.26)
みちのく銀行事件(最高裁H12.9.7)労働契約法による新たな明示
3月から施行された労働契約法では、これまでの裁判所の判断を踏まえ、会社による就業規則の一方的な不利益変更を禁止する規定を設けました。
「使用者(会社)は労働者と合意することなく、就業規則を労働者の不利益となる労働条件に変更することはできない。」(労働契約法第9条)
上記のとおり、就業規則を一方的に変更することで社員に労働条件の低下を強制することは禁じられています。しかしながら、就業規則の不利益変更が一切許されないというわけではありません。それでは、どのような場合に就業規則の不利益変更が認められるのでしょうか。次回は、その条件について解説いたします。
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2008年10月6日
就業規則の周知
働き方の多様化により、様々な立場の労働者が同時に働く機会が増えています。また未払い残業やパワーハラスメント等の労働問題が顕在化している昨今、就業にあたり守るべき規則を定めた就業規則の重要性が増しています。
そこで、今回は、就業規則の基礎について解説いたします。
就業規則とは
就業規則はその会社に在籍する従業員が、就業にあたり守るべき規則を定めているものです。あくまでその企業内部での規則ですから、原則として、その内容を会社が自由に定めることができます。
しかし内部規則とはいえ、完全な自由を認めてしまうと従業員にとって一方的に不利な規則となる危険性があります。そこで、労働基準法は、就業規則作成に関して以下のルールを設けています。- 法令、労働協約に即していること
- 常時10人以上の労働者を雇用する者の作成義務
- 記載内容の義務
- 労働者代表の意見聴取義務
- 労働基準監督署への提出義務
- 労働者への周知義務
- 制裁規定の制限
なお、特に6.について、労働者への周知が行われていない就業規則は、他のルールをすべて満たしていても、効力が認められませんので、注意が必要です。
就業規則の効力
就業規則は労働者への周知手続きを行って、はじめて社内規則としての効力を発揮します。意外に思われるかもしれませんが、意見聴取や労働基準監督署への届出を怠っても、労働基準法違反には問われても、効力自体は認められます。
では周知とはどのように行えばいいのでしょうか。労働基準法の施行規則では以下ように示されています。- 常時各作業場の見やすい場所に掲示し・備え付ける方法
- 書面で交付する方法
- 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する方法
今年施行した労働契約法第7条において、就業規則が労働条件としての性格を持つこと、および労働条件の効力を持つには就業規則の周知が必要であることが謳われています。
素晴らしい就業規則を設けても、それが効力を有さなくては意味を成しません。現在御社の就業規則が周知義務を満たしているか、改めて確認をしてはいかがでしょうか。 -
2008年9月1日
パワーハラスメント
最近、『パワーハラスメント』(以下「パワハラ」)という言葉を耳にする機会が増えました。近年、このパワハラが大きな問題となっています。社内でパワハラが発生してしまった場合、どのような対応をしたらよいのでしょうか。
今回はその対応策と、さらにパワハラ予防策について、解説いたします。
パワハラに該当するか
問題とされる行為が発生した場合、まず、その行為がパワハラに該当するかを判断しなくてはなりません。パワハラは「職場において職権などの力関係を利用して相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い、精神的な苦痛を与えることにより、その人の働く環境を悪化させたり、あるいは雇用不安を与えること」と定義されています。
上司から部下への注意、指導というのは会社では一般的に見られる光景であり、部下への叱責をもって職権の濫用とは言えません。もし、その注意、指導が客観的に見て行き過ぎている場合や、本来仕事とは関係のない内容、例えば個人の性格や身体的な特徴を否定するような言動がある場合は問題となります。これらは、相手の人権を侵害する行為ですから、パワハラに該当する危険性が非常に高くなります。
パワハラに該当するかは判断に難しい面があり、個々のケース毎に注意深く判断する必要があります。そのため、主観ではなく、しっかりと調査を行い、事実に基づき判断する必要があります。懲戒処分に関して
パワハラをした従業員には、懲戒処分を行うことが可能です。該当社員の行為に著しく問題があり、会社として是正指導を再三に渡り行ったにもかかわらず改善が見られない場合には、懲戒解雇もやむを得ない対処法かと思います。
ただし、、懲戒処分を安易に行うのは避けなくてはいけません。不適切な懲戒処分を行った場合には、その懲戒処分が新たな労働争議を引き起こす可能性があります。懲戒処分をする場合は、最低でも以下の点に注意してください。
- パワハラの事実を調査した上で、事実認定しているか。
- 会社から本人に対して事前に是正の指導、注意を行っているか。
- 就業規則にパワハラに対する懲罰規定を定めているか。
『パワハラ』の予防に関して
会社には労働者に対して職場環境に関する安全配慮義務があります。パワハラが起きてしまった場合、パワハラを行った上司ばかりでなく、会社も、安全配慮義務違反や使用者責任を問われる可能性があります。そのため、パワハラの発生しない職場環境作りが重要になります。予防策は個々の環境によって様々ですが、代表的な予防策として以下の対応が考えられます。
- 社内教育を実施する
未だパワハラに関する認識が薄い面があり、加害者自身もパワハラと認識していないケースが見受けられます。まずはパワハラとは何かを社員に理解させる必要があります。特に職権を持つ管理監督者には、別途管理者向けの教育を設けるのが有効です。 - 就業規則に予め禁止規定を定めておく
発生してしまった場合に備え、懲罰規定も定めます。 - 相談窓口を社内に設ける
相談窓口は相談者のプライバシーへの配慮に気をつける必要もあります。
パワハラは、放置しておくと優秀な人材の流出や、社会的信用の失墜という、深刻な事態を招く場合があります。これまでパワハラへの対策が未着手の場合には、早めの対策をご検討ください。
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2008年8月4日
メンタル不調者の復職
近年、メンタルヘルス不調者が増加傾向にあり、多くの経営者や人事担当者が対応について悩まれています。その背景には精神疾患の診断基準の拡張や労働者有利な法改正などが挙げられます。今回は休職者が復職する時の対応方法について解説いたします。
復職の可否判定について
復職の可否を判断するのは会社です。休職中の社員から、担当医による復職可の診断書が提出された場合でも、当然に復職させなければならないというわけではありません。実務上は、医師と会社との双方とも、復職可能との判断をしたときに、復職を認めるのが一般的です。
しかし、復職可の診断書が提出された場合に、会社の判断で復職を認めないときは、復職を認めないだけの合理的な理由が必要です。具体的には、以下のような理由が挙げられます。- 会社の業務内容を把握している精神科医が復職を不可と判断した場合
- 社員の担当医に業務内容を説明し、復職の診断が取り消された場合
※この場合、担当医の話を聞くには本人の同意が必要です。 - 合理的な休職・復職の制度が社内で周知徹底されており、その制度にのっとったステップでの復職を当該社員が拒否した場合
※例えば「復職の際は会社指定の医師の診断を受ける旨」が明記されており当該社員がその医師の診断をかたくなに拒否する場合。 - 薬の副作用が当該社員や周囲の作業者に危険を及ぼす可能性がある場合
(危険有害業務、自動車等の運転業務など) - 就業規則に定めている休職期間をすでに満了し、退職となっている場合
社員から医師の復職診断書が提出されている以上、会社としても、専門家である医師の意見を聴取するのが望ましいと考えられます。ここで上記1.で「産業医」ではなく「会社の業務内容を把握している精神科医」と記載したことには理由があります。
「産業医」と言っても、形式的に選任されているだけで、会社の業務内容等を全く把握していない医師が下した診断では有効性に欠ける可能性があります。また、産業医が精神科医でない場合、精神医療の専門家と見ることは困難です。このような場合は、2.のように、人事担当者や産業医が、復職を希望する社員の同意のもとに担当医と連絡をとり、職場復帰可否の判断をするのが合理的でしょう。ところで、会社が復職不可の判断をしたにも関わらず、無理に復職しようとするケースもあります。このような場合は、「復職後2ヶ月間は試用扱いとし、その期間中の8割以上出勤できない場合は再休職とする」といったように条件を明確にして確認書等を交わすなどしておくことや、復職後、求められるパフォーマンスを発揮しているか、出勤時間等を守れているかなどを書面に残しておくことも重要です。
<参考>休職・復職に関する代表的な判例
エール・フランス事件 東京地判S59.1.27
https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/06/55.html
片山組事件 最一小判H10.4.9
https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/05/26.html休職期間満了までに回復することが叶わなかった場合は退職となりますので、その社員に対する思い入れやご家族のことを考えると、復職を認めないのが難しいこともあります。
休職期間中、上司が定期的に本人の相談に乗ったり、人事担当者が家族とコンタクトをとり本人の回復を支援するなど、誠意ある対応をすることで円満退社とすることができます。復職後の対応
次に復職後の対応について説明します。
社員が職場復帰したからといって、他の社員と同じように勤務できるとは限りません。特に精神疾患の場合、身体的な疾患に比べ、「再発」の危険性が高いと言われているようです。社員が職場復帰した時には以下の点に留意する必要があります。- 復職後の業務計画
上司と本人とで話し合い、復帰後の職場計画を作りましょう。最初の1~2ヶ月は休職前の業務の半分以下の負荷設定にし、復職後1年ぐらいで休職前の80%以上の業務遂行が出来るような計画が最適と言われています。 - 復帰後の定期診断
復職して数ヶ月間は1~2週間に1回は産業医または会社の指定する精神科医と面談の機会を設け定期的に健康状態をチェックします。数ヶ月経過後も月1回は医師との面談の機会を設け、その内容を記録するようにします。その記録が傷病の回復状況や社員の休職・復職の大きな判断材料になります。 - 上司のケア
当該社員にとって一番の味方は上司です。精神疾患の場合、周囲の社員は当該社員が精神疾患であることを知らないケースも多いです。上司が効果的なサポートをできるよう必ず1度はメンタルヘルスに関する管理者研修を受講させます。 - 職場のケア
メンタル不調者が職場復帰した後、当該社員のパフォーマンスが低く、同職場の社員から不平不満の声があがることも少なくありません。メンタルヘルス研修や勉強会を実施して周囲の理解を深めることも重要です。 - 人事担当者の支援
上司のケアや職場のケアも重要ですが主導となるのは人事担当者です。復職後の状態や回復状況を継続的に確認し、当該社員をサポートする必要があります。特に職場の上司には大きな負荷がかかりますので本人だけでなく、上司や職場に対してのサポートも忘れないようにします。 - 家族との連携
不調の兆しは、職場ではなく家庭で出ている場合もあります。社員のご家族ともできるだけ連絡を密にして社員の回復をサポートします。
以上の留意点を会社の職場復帰プログラムとして整理・体系化しておけば、精神疾患に限らず、傷病休職者が出たときにスムーズに対応できます。また、職場復帰支援については厚生労働省からも手引きが公表されています。
<参考>厚生労働省ホームページ(心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/10/h1014-1a.html -
2008年7月10日
「出勤不良」社員の解雇
昨年度、全国約300ヶ所の総合労働相談コーナーに寄せられた総合労働相談の件数は約100万件に達し、毎年増加の一途をたどっています。このうち、民事上の個別労働紛争相談の内訳で最も多いのが「解雇」に関するもので、全体の約4分の1を占めています。
解雇の理由にはさまざまなものが考えられますが、今回は、遅刻や無断欠勤が多い「出勤不良」社員を例に、解雇について解説いたします。
「出勤不良」は解雇理由になるか
労働者が遅刻や無断欠勤をすること、つまり「出勤不良」は労働契約上の義務違反となります。
労働契約に定められた就業開始の時刻に遅刻したり欠勤して労務の提供を行わないことは、労働契約上の義務の不履行として「解雇の理由」にあたります。また、職場の秩序を維持する観点からすれば、「懲戒解雇の理由」にもなります。しかし、解雇理由があるからといって、ただちに解雇できるわけではありません。解雇権濫用とは
本来、使用者は解雇の自由を有しています。しかし、これが「権利の濫用」にあたる場合は解雇が無効となるという「解雇権濫用法理」が多数の判例の積み重ねによって確立されています。
判例によれば、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」とされており、訴訟実務上も解雇ルールとして定着しています。この法理については、今年3月に施行された労働契約法においても、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とする。」と明記されています。解雇の有効性
解雇を行う場合は、その具体的な理由が、社会通念上相当なものとして是認されなければなりません。
例えば遅刻や欠勤を理由に解雇する場合、その理由・原因や程度のいかん、本人の反省の有無、平素の勤務状況、業務に与えた影響、同種事案における他の処分との均衡、従来の取り扱いなど諸般の事情を総合して、解雇が過酷に失することがないかという観点から解雇の有効性を判断することになります。では、実際に出勤不良の問題社員を解雇する場合、どのようなことに注意をしなければならないのでしょうか。
裁判所の一般的な見解では、その出勤不良の程度が著しく悪質であり、従業員に改善の見込みがなく、かつ、その出勤不良のために事業に大きな障害が生じて使用者が従業員を解雇する以外に方法がないことが必要だとしています。したがって、解雇は最終手段となります。解雇する前に、労働者に対し努力や改善を促したかどうか、それでもなお労働者の勤務態度などの改善がされない場合、あるいは改善されないことが明らかな場合に、はじめて解雇という選択肢を有することになります。解雇が有効とされた裁判例
- 出勤率が極めて不良で3か月間で3回も出勤勧告を受けてもなお改まらずその後半月所在不明の欠勤をしたこと等を理由に解雇したもの
(岡崎工業事件 福岡地裁小倉支部S49.8.1) - タクシー会社において無断欠勤が多く配車に多大な支障をきたしたことを理由として普通解雇あるいは懲戒解雇したもの
(国際交通事件 東京地裁S59.1.26)
解雇が無効とされた裁判例
- 従前、会社全体において厳格に守られていなかった欠勤、遅刻、早退等を理由とする懲戒解雇したもの
(太平設備機械事件 名古屋地裁S37.5.28) - 6日間の無断欠勤と上司に対する暴言を理由として解雇したもの
(新甲南鋼材工業事件 神戸地裁S47.8.1)
- 出勤率が極めて不良で3か月間で3回も出勤勧告を受けてもなお改まらずその後半月所在不明の欠勤をしたこと等を理由に解雇したもの
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2008年6月2日
有給休暇の買上げ
ワークライフバランスや健康管理の面からも、年次有給休暇の取得促進は重要な課題となっています。
厚生労働省が2007(平成19)年10月に発表した調査結果によると、2006(平成18)年(又は2005(平成17)会計年度)1年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数は除く)は、労働者1人平均17.7日(前年17.9日)となっており、そのうち労働者が取得した日数は8.3日(同8.4日)で、取得率は46.6%(同17.1%)、前年に比べ0.5ポイント低下しています。今回は、未取得の年次有給休暇の取扱いについて解説いたします。
年次有給休暇とは
労働基準法により、労働者の疲労回復、健康の維持・増進、その他労働者の福祉向上を図る目的で、勤務年数に応じて所定の日数の付与を義務づけている休暇です。
年次有給休暇の買上げ
未取得の年次有給休暇を金銭で処理をすることを「有給休暇の買上げ」と言いますが、「有給休暇の買上げ」の予約をし、年次有給休暇を与えないことは禁止されています。(昭和30年11月30日基収第4718号) ただし、以下の場合は、「有給休暇の買上げ」が認められています。
- 法定日数分を超える部分の休暇日数
労働基準法で定める付与日数を上回る年次有給休暇については、その日数について、就業規則等で買い上げる旨の規定を設けても、違法とはなりません。 - 時効によって消滅した休暇日数
労働者が年次有給休暇を請求しなかった場合、2年でその権利は消滅します。
したがって、時効で消滅した年次有給休暇を恩恵的に買い上げることは違法とはなりません。 - 退職・解雇により消滅した日数
退職や解雇によって退職する者の年次有給休暇が、退職日に未取得のまま残っている場合には、その残りの日数を買い上げても必ずしも違法とはなりません。年次有給休暇は、本来労働すべき日に労働義務を免除するものですから、退職後にはその権利を行使する余地がなくなるからです。
「有給休暇の買上げ」額
「有給休暇の買上げ」自体、法律上の制限が及ばないため、買上げ額についても会社が任意で定めることが可能です。一般的には以下の取扱がなされています。
- 年次有給休暇を取得した場合に支払われる賃金に準じて買上げ額を決める
年次有給休暇を取得した日にについては、通常の賃金・平均賃金・健康保険法上の標準報酬日額、のいずれかを支払わなければならないと規定されています。これらの算出方法に準じて、買上げ額を決定する方法です。 - 一定額とする
一定額とは、当該者の賃金にかかわらず、例えば「一律5,000円」などと定めて買い上げる方法です。
年次有給休暇の買上げは会社の義務か
「有給休暇の買上げ」を行うかどうかは、一定の場合、会社が任意に定めることができます。労働者側から、残余の有給休暇の買上げを請求する権利はありません。
年次有給休暇の本来の意味を考えると、残った有給休暇を買上げるよりも、取得しきれるような労働環境を整えることが良いと考えられますが、業種、業態によって年次有給休暇の取得率にはかなりの差があるのも事実です。「有給休暇の買上げ」を行う場合は、就業規則等で明文化しておくことをお勧めいたします。
- 法定日数分を超える部分の休暇日数
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2008年5月8日
「サービス残業」による未払い賃金
テレビ・新聞等で「残業代未払い」や「労働基準監督署による未払残業代の支払勧告」といった言葉を見聞きすることが多くなりました。近年、サービス残業による未払い賃金を過去にさかのぼって支払うよう命じられる企業が後を経ちません。2006(平成18)年の厚生労働省の発表によると、支払いを命じられた企業数は1,679件、対象労働者は182,561人、支払われた割増賃金の合計は227億1,485万円に上っています。
以前、未払い賃金を支払う際の税務上の問題を解説いたしましたが、今回は人事労務の面から残業に関するポイントを解説いたします。
残業代(割増賃金)とは
一般に使用者が労働者に残業をさせた場合、「通常の賃金」に「割増率」を乗じた賃金を残業代として支払わなければなりません。この残業代のことを割増賃金といいます。割増賃金を支払わない場合は、労基法違反で原則として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。この規程は強行規定ですので、たとえ労使間で話し合って合意したとしても事業主は処罰されることになります。
通常の賃金とは
月額制の場合は、基本給および各種手当の合計額を分子、1ヶ月平均の所定労働時間数を分母にして算出します。なお、分子から除外してもよい賃金項目は法律で定められており、以下の賃金は基本給および各種手当の合計額から除外することができます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
役付手当や精皆勤手当は除外されていません。また、名称のいかんではなく、その実質により判断されます。したがって、家族手当、住宅手当という名称であっても、個人的事情を度外視して、一律の額で支給される手当は除外されません。
割増率とは
時間外労働 2割5分以上
深夜労働 2割5分以上
休日労働 3割5分以上
時間外労働+深夜労働 5割以上
休日労働+深夜労働 6割以上続いて割増賃金の支払いが必要になる時間外労働、休日労働、深夜労働について説明いたします。
時間外労働とは
一口に時間外労働といっても、法定外残業(法定時間外労働)と法定内残業(所定時間外労働)とに区別されます。ここでいう法定とは、労働基準法に定められた1日8時間、1週40時間の労働時間のことを指します。割増賃金の支払い対象となる時間外労働は、この法定を上回る時間外労働を指します。
例えば、会社の始業時刻が午前9時で終業時刻が午後5時(午後12時から午後1時までは休憩時間)である場合、1日の所定労働時間は7時間です。ここで、1時間残業して午後6時まで働くと1日の労働時間は8時間となりますので、労働基準法上の法定時間外労働とはなりません。よって、この残業1時間については、割増賃金を支払う必要はなく、就業規則などの定めにしたがって通常の賃金を支払えばよいことになります。
ただし、就業規則で「法定労働時間を上回った場合は、時間外の割増賃金を支払う」と明確にしておいた方がよいでしょう。休日労働とは
それでは、休日労働についてはどうでしょうか。
休日に働けば、割増賃金の対象となる休日労働になるかといえば、法律上は必ずしもそうはなりません。労働基準法では、「法定休日」に働いた場合に休日労働となります。具体的には、原則として1週間に1日の休日を労働者に与えればよいということになっており、これが法定休日といわれるものです。
最近は、完全週休2日制の事業場が多くなっています。例えば、ある会社で毎週土日が休日の完全週休2日制をとっている場合、この土日のどちらかが法定休日となります。ここで、従業員が土曜日に出勤し、日曜日は通常通り休日をとったとすると、日曜日を法定休日としている場合は、土曜日は休日労働となりません。
ですから、土曜日の出勤について法律上は3割5分増以上の割増賃金を支払う必要はなく、法定労働時間を超えている分について時間外労働の割増賃金を支払えばよいということになります。
なお、法定休日は必ずしも特定する必要はありませんが、できるだけ就業規則もしくは雇用契約書に明記しておいた方がよいでしょう。深夜労働とは
深夜とは、午後10時から午前5時までの時間を指します。この時間帯に労働をさせた場合には必ず深夜労働の割増賃金を支払わなければなりません。例えば、シフト制で夜勤の労働者を午後8時から午前5時まで(午前0時から午前1時までは休憩時間)労働させる場合、午後10時から午前5時までの7時間から休憩時間を除いた6時間について2割5分増以上の割増賃金を支払う義務が生じます。
時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)とは
割増賃金と時間外、休日等について説明をしてきましたが、そもそも法定の1日8時間、1週40時間を上回る時間外労働、または休日労働をさせる場合、労基法第36条に定められた手続きをとる必要があります。
この手続きとは、「36(サブロク)協定」(正式には「時間外労働・休日労働に関する協定届」)を締結し、これを所轄の労働基準監督署へ届出ることです。
時間外労働、休日労働をさせる可能性がある場合は、事前に必ずこの手続きを行ってください。
ただ、注意して頂きたいのが36協定を締結すれば、何時間でも残業を行わせることが出来るわけではないということです。使用者が時間外労働をさせられる時間には限度があり、基準が示されています。そのため、原則としてこの限度時間内で協定を結ぶことになります。なお、各項目の詳しい内容は、以下のWebサイトもご参照ください。
<参考>アクタス運営 人事労務情報サイト「romu.jp」の関連ページ
<労働基準法>時間外、休日、深夜労働の割増賃金
<労働基準法>労働時間
<労働基準法>休日
<労働基準法>時間外及び休日の労働(36協定) -
2008年4月1日
労働基準法上の「管理監督者」の判断基準
先日、東京地裁で日本マクドナルド社に対して、同社の店長が「管理監督者」には該当しないとして、会社に未払い残業手当の支払いを命じる判決が下りました。
この判決に関連して、今月は、労働基準法の「管理監督者」の判断基準や取扱い上の注意点について解説いたします。管理監督者とは
管理監督者は、労働基準法で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用は受けないとされています(労働基準法41条2項)。そのため、週40時間・1日8時間という制限や、週1日は休日を与える義務があるという労働基準法の規定が適用されません。
つまり、管理監督者には、時間外労働手当や休日労働手当を支払わなくても良いということです。
管理監督者が残業手当や休日出勤手当を請求できないのは、管理監督者は自らの労働時間の管理について裁量権を持っているので法律による保護になじまないからだとされています。ただし、管理監督者であっても年次有給休暇や深夜業に関する規定についての適用は除外されていませんので、年次有給休暇の申請があったときは与える必要がありますし、深夜業(午後10時から午前5時)を行ったときは25%増の深夜残業手当を支払う必要があります。
管理監督者の判断基準
では、どのような人が管理監督者にあたるのでしょうか。
- 労働時間の管理を受けない
遅刻・早退の際に給与を減額している場合は、管理する側ではなく、管理されている側と判断されますので、管理監督者とは認められません。 - 賃金面で一般従業員よりも優遇されている
基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているかどうか、ボーナスなどの支給率や算定基礎賃金等について優遇されているかどうかも判断の基準とされています。 - 労務管理上の指揮権限があって管理的な仕事をしている
例えば、人事考課を行っている、年次有給休暇の許可を与える、業務の指示を与える、採用の決定権限があるなど、会社側の立場で働いているかどうかも判断基準になります。管理的な仕事をしていない場合は管理監督者とは認められません。
以上の点を総合的に勘案して、管理監督者であるかどうか判断されます。全ての条件を満たしていないと認められないということではありません。
日本マクドナルド社のように、「管理監督者でないから2年前にさかのぼって残業手当を支払いなさい」と判断されると、未払い残業手当として一人当たり数百万円を支払わなければならなくなる可能性もあります。誤った運用が行われていないか、確認することをお勧めいたします。
- 労働時間の管理を受けない
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2008年4月1日
改正パートタイム労働法
「面接の時に時給の金額しか聞いていなかったが、同じ仕事をしているのに、正社員には賞与、退職金、昇給、有給休暇があってパートタイマーにはないのはおかしいのではないか」
昨今、このような声がよく聞かれるようになっています。会社が、パートタイマーを採用する際に労働条件の提示を行わなかったり、パートタイマー用の就業規則が定められていないために、このような疑問が生じるケースも多いようです。今回は、「改正パートタイム労働法」を踏まえて、パートタイマーの雇い入れの際の注意点を解説いたします。
労働条件の明示とは
労働基準法は、会社に対して、パートタイマーも含め労働者を雇い入れる際に労働条件を明示することを義務付けています。特に「契約期間」、「仕事をする場所と仕事の内容」「始業・終業の時刻や所定労働時間外労働の有無、休日・休暇」「賃金」などについては、文書で明示することを義務付けています。違反の場合には、30万円以下の罰金に処せられます。(労働基準法第15条)
法改正による留意点
今回の改正パートタイム労働法では、上記に加えて「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」の3つを文書の交付などにより、速やかにパートタイマーに明示することが義務化されます。違反の場合、行政指導によって改善がみられなければ、10万円以下の過料に処せられます。(パートタイム労働法第6条)
これにより、今まで簡単な面接のみで採用していたパートタイマーにもパートタイマー用の「雇用契約書」を交わす、または「労働条件通知書」を渡す必要が生じてきました。
さらに、法改正に直接関連したものではありませんが、正社員用の就業規則しか作成していない会社は注意が必要です。パートタイマー用の就業規則がない場合は、正社員用の就業規則がパートタイマーにも適用されてしまうからです。
たとえば、週2日しか働かないパートタイマーでも正社員用の就業規則で「入社6ヵ月後に年次有給休暇を10日付与する」とあれば、本来は10日も付与する必要がなくても、10日付与しなければ労働基準法に違反することになってしまいます。
御社ではパートタイマー用の就業規則は用意されていますか?
正社員と同じ雇用契約書(労働条件通知書)、就業規則を使っていませんか?
この機会に、是非ご確認ください。
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